第39話 天然たらしで充電中
いすずが言ったように、明日はドラマの顔合わせがある。
顔合わせ、それは監督や役者、スタッフが自己紹介などをする場のことだ。
「それで、明日の顔合わせだけどどうかしたのか?」
「き……」
「き?」
「……緊張してきたぁ」
「えっ?」
「うえーん! お兄ちゃんものすっごく緊張してきたの! どうすればいいのかな!?」
「落ち着けって!」
まさかのいすずの発言に俺は驚いていた。
人気アイドルとしてさまざまな活躍をしてきたいすず。ドラマだって今まで出たことがあると聞いていた。だから、緊張には慣れたのではないかと思っていた。実際本人が言ってたしな。「緊張なんてないよ! むしろ楽しい!」って。
「ドラマに今まで出てただろ? どうして緊張するんだよ」
「うぅ、主演は初めてだから」
「つまり、初めて主演になったから緊張しているってことか?」
「それも半分だけど、あともう半分は監督かな」
「あぁ」
俺はいすずが何を言おうとしているのか、納得した。
「
「うぅ、だよね……」
いすずははぁっとため息を吐くと、持っていたサンドイッチを一かじりした。
「栄監督の噂は他の現場でも聞いてたんだよね。撮影に妥協しないことで有名だって」
「そうだな~~俺も昔、何度もリテイクくらったっけ」
「うぅ」
蘇る監督との日々。泣き出す俺。
栄監督には何度も撮影をやり直しをさせられた過去を思い出すだけで、震えてしまう。
そんな俺を見て何かを感じとったのか、いすずの顔が真っ青になった。
「あ、明日大丈夫かな」
「まっまあ大丈夫だ! 俺が撮影したのは5年前だし。もしかすると、監督も丸くなってるよ、うん!」
「そうかなぁ~~」
「そうだって! ほら、朝ご飯食べて元気出せって」
「うん……」
いすずはまだ緊張しているのか、サンドイッチを齧る動きが弱弱しく感じ、まるでしょんぼりとしている小動物のようだった。
「(なんかあったらサポートしてやらないとな)」
まぁ、その余裕が俺にあればいいんだけど。
◇
朝ごはんを食べた後、俺は出かける準備をしていた。というのも事務所へ来て欲しいと社長に呼ばれていたからだ。(もちろん真上太陽の格好+サングラスである)
リビングへ行くと、いすずはソファーに座り本を読んでいた。どうやら原作の小説を読んで勉強しているようだ。小説にはたくさんのふせんが付いていて、たくさん勉強したことが伺える。努力家だないすず。
「いすず行ってくるなー」
熱心に勉強しているいすずには悪いが、声を掛けた。あとで、「家出る時は何書いって!」って言われそうだしな。
「えー、お兄ちゃん行っちゃうのーー。構ってよ」
「しょうがないだろ? 社長命令だしさ」
「ぶー、しょうがないな」
いすずは小説をソファーに置くと、こっちへ近づいてきた。
「ん? どうしたんだ?」
「えいっ」
「わっ!?」
突然いすずが俺の首へと両手を伸ばしてくると、そのまま自分へと引き寄せた。側から見たら、俺が抱きつかれているような格好だ。
「びっくりした。いきなりなんだよ」
「ぶぅ、お兄ちゃんにドキドキさせようと思ったのに」
「ある意味ドキドキだわ(胸が当たってるんだよ)」
「ん? 何か言った?」
「べ、別に。ほら、俺はもう行くんだから離れろ」
「えー、やだ。もう少しお兄ちゃんを充電する」
「充電って意味が分からないんだが……離れろー」
「いやだ!」
いすずはぎゅーぎゅー抱きついてきてなかなか離れない。
「あと10秒だから」
「あと10秒をさっきから何回言ってるんだよ」
「んー、20回?」
「多っ!? ともかく俺はいくからな!!」
「もう、しょうがないなー。私に免じて許してあげるよ」
「なんで、上から目線なんだよ!?」
いすずは渋々といった感じに離れてくれた。これなら約束の時間までに間に合うだろう。
「じゃ、行ってくるな」
「うん、いってらっしゃい。気をつけてねー、あっ女の子とイチャイチャしないでね!」
「お前は俺をなんだと思ってんだ」
「んー、天然たらし?」
「まじか」
「うん、まじまじ」
まさか妹に天然たらしと思われていたとは。真面目に生きてきたつもりだけど、俺って天然たらしなの??
少しショックを受けながら俺は事務所へと急いだ。
事務所へは駅からタクシーで向かう。
30分かけてようやく事務所へとつく。
大きくそびえ立つビル。
周りのビルを圧倒するようなその規模の大きさ……俺の所属している柊事務所が目の前にある。
「さてさて、何の話があるのやら」
社長のことだ、きっと明日のドラマの顔合わせでなんかあるんだろう。
俺は社長の呼び出し内容を想像しながら、ビルに入ろうとした。
その時だった。
「そこどいて下さい!!」
「えっ」
女の子の高らかな声が聞こえてきた瞬間、俺はそのまま後ろへ倒れていた。
「いててっなんだ?」
ゆっくりと体を起こそうとすると、体の上には女の子が乗っていて身動きができない。つまり、俺は知らない女の子が俺にもたれている状態だった。
「うぅ」
「えっと」
この状況、どうすればいいの??
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