魔女は7月に死ぬ

此木晶(しょう)

斯くて彼女はかくの如く語りけり

「魔女は7月に死ぬんだよ」

彼女からそんな話を聞いたのは、太陽ギラつくとても暑い日の事だった。

それも、満開の向日葵を前にした真っ白のワンピースに麦わら帽子なんて格好で、魔女という言葉から連想する陰鬱さからは程遠いそんなシチュエーションだった。

「だからって、安全確認はするべきだ」

「いやいや、大丈夫だって。今は7月じゃないんだから」


「神は6日かけて世界を作り、7日目に休息を取った。そして世界は完成した。だから、7は完全で完璧で、聖なる数字に選ばれた。であるならば、神からもっとも縁遠い魔女にとって、7は呪われた数字だろう?」

燃えるような紅葉の中、彼女はそんなことを口にした。

確かに世界には7が満ちている。

七元徳に七福神、七宝、7つの大罪、7大天使、ラッキーセブンに七不思議。かくも多く聖なるものと崇め奉られている。

「世界は本当に怖いよね」

「なら日曜日も危険じゃないのか?」

「流石にその日は、呪いもお休みさ」


「魔女は7月に死ぬんだよ」

繰り返された言葉は、白い息と共に吐き出された。

雪は全てを白く染め、彼女はその血で雪を紅く染めている。

「どうして」

壊れたおもちゃみたいに僕は繰り返す。

両の手はとうに赤にまみれていて、寒さに震えずにいられるのもきっとそのお陰だろう。


「だから言っているだろう、魔女は7月に死ぬんだよ」

母親が子供に言い含めるように彼女は繰り返す。

魔女は7月に死ぬ。

7と言う聖なる数字が取り憑いた月に殺される。


彼女は笑っていた。

肋骨を切り開いて出来た胸の空洞に鮮血を溢れさせ。

そこに心臓はない。僕の掌の上で未だ蠢いているから。

それは確かに熱を持ち、あり得ざる場所へと鼓動を届けている。

「ね。言った通りだろう。魔女は7月に死ぬんだよ」


それは、翻れば。

『魔女は何があろうと7月以外で死ぬことはない』

つまりは。

『何者であろうとも7月以外殺すことは叶わない』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔女は7月に死ぬ 此木晶(しょう) @syou2022

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ