第47話 神殿

南陽騎士団から5名とロラの町から2名を案内役として出してもらい神殿に向けて調査を開始した。


族長の話を聞くとここ数日は襲撃もなく、疲弊した男手を少し休ませながら見張をメインにやっていたそうだ。

神殿は襲撃のある東側とは反対側の町から見て北西にある。


(男爵がいらっしゃる前に色々と話しておきたいが、族長も実際に戦闘に参加して疲れているようだな。ギリギリの防衛…だな。もう2〜3日遅かったら攻め込まれていたのかもな。)


『族長、皆が疲弊し切っている所すまないが町の守備隊の責任者と少し話しをしたいのだが宜しいか?』


『勿論です。今呼んで来させよう。』


話し合いが終わったのは日付が変わる少し前だった。互いに疲れてはいたが情報の共有は必要な事で双方共に理解していた。


神殿に向かった捜査隊が戻ってこない心配はあったが、明日の朝一で男爵を迎えに行かなければならず、部下に任せてミハエルは就寝した。


翌朝、迎えの用意しているとティナが訪れていた。

『おはようございます、ティナさん。もしかして男爵を迎えに行くのについて来られるのですか?』


『おはようございます、ミハエル様。もしお邪魔でなければ祖母もいるので迎えに同行したいと思いまして。それに誘導するのに戦える男性よりも私が行った方が。』


『分かりました。宜しくお願いします。もう用意は出来ますが、このまま来られますか?』


『はい。用意は出来ています。このままお願いします。』


時は少し戻り、夜明け頃のハジメは数時間だけ寝て自らも見張り番をしていた。

起きて町に行って、いきなり戦闘かも知れないので団員には少しでも休息が必要だった。

(モンスターだけではなく他の砂漠の民同士の争いも昔からずっと続いていると聞いている。この機会にどこかの部族がタリール族を攻めてくる可能性もなくは無い。そうなると対人戦にもなる。出来るだけ人殺しはしたくないが…。)


懸念された夜間の襲撃もなく、ハジメも参加したおかげで団員のほとんどがある程度睡眠を取れたようだ。早朝に迎えが来るかも知れなかったから、ストレージから温かいスープを皆で食べて備えていた。


ハジメの時計で7時頃、ミハエルと従者数名とティナがやって来た。

合流後1時間でロラの町に移動して、ようやくハジメは族長と会う事ができた。


族長の部屋にて


『はじめまして。タリール族族長のノリスと申します。この度は我らの救援の為に遠路ありがとうございます。ナカムラ卿のお話はジョシュワ商会の方から良く聞いています。希代の発明家であり素晴らしい治世を行う名君だと。』


『いやいや、よしてください。発明はたまたまですし、名君など侯爵様の為にある言葉です私は運とミルズに住む民に恵まれただけです。』


(前評判通り、若いのに驕りが全くないお人の様だな。娘のティナの話では聡明な方で母上が大層気に入った様子。我母ながら気難しい性格なのに、たった1日で気に入るとは。)


(ノリスさんか、たしかに砂漠の民の族長と言うだけあって精悍な顔つきだ。相手を立ててはいるが自分達の誇りもしっかり持っているようだ。ティナさんの父親でイーシャさんの息子になるのか。どことなくイーシャさんに雰囲気は似てるのかな?)


和やかに挨拶は終わり、いよいよ町の防衛と今後の方針を決めようとした時に部屋の外から走ってくる足音が聞こえドアをノックする。

部屋付きの従者がドアの内側から叫ぶ。


『何用か!今は族長が男爵様と今後の打ち合わせ中である。急ぎのようでなければ後にしろ。』


『火急の知らせです。夜に神殿に向かった捜査隊のうち1人だけが全身傷だらけで帰還しました。どうやら奴らにやられた様です!』


『何だと?すぐに中に入れろ!詳しく話しを聞きたい。』ノリスが先ほどの和やかな雰囲気から一転して厳しい顔つきになり指示をする。


『はっ。失礼します。おい大丈夫か、ミハエル殿の所まで連れてきたぞ。』


入ってきたのはタリール族若者に両肩を支えてもらい片足を引きずった南陽騎士団の若い騎士だった。

肩当てはボコボコに凹み、胸部のプレートも抉れたような大きな凹みが見てとれた。顔も傷だらけで片目は完全に打撲で潰れていた。

まるでボロ負けになったボクサーの試合後の様な顔である。


『おい、大丈夫か!ひどい傷だ。ゆっくりで良い、膝をつかなくていい。状況を説明してくれ。』


若い騎士はそのまま肩を支えてもらいながら立って報告をした。


『我々は5名とタリール族の2名の男性の案内のもと、神殿に向かいました。そこにいたのはモンスターではなく人でした。黒い頭巾を被り口元を隠していたので目しか見えませんでしたが、明らかに普通の人間ではありません。何か暗殺者のような冷たい目をした、おそらく男達が2人』


「たった2人にお前以外の6名が殺されたというのか?』


『はい。目にも止まらぬ速さで動き、逃がそうとしたタリール族の2名も殺されてしまって。隊長から伝達の為に私が1人こちらに向かって馬を走らせてきました。』若い騎士は俯き頬には涙が伝う。


『そうか…。ほぼ全滅で他の者が亡くなっているので言いにくいが君だけでもよく戻ってきてくれた。まずはその酷い怪我の手当をしよう。ヒール!』


治療を済ませて、部屋から退出させる。

怪我は治っているが流れてしまった血液までは回復出来ない。しばらくは安静が必要だ。


こうしてミハエルとハジメはモンスターとタリール族の民族間の争いの2つを同時に対応しなければいけない事になった。

ただ、民族間の争いは深く介入するのは政治的にも難しい事から侯爵への連絡が必要になるのでジョシュワ商会経由で手紙を書くことになった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

肇のリアル異世界記 @masa27

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る