第46話 伝承


タリール族の伝承

東の空より災いが来る時、西の白山の麓より大鷹が舞い降り、我々を救うだろう。

その大鷹は白山の如き白き鷹なり。



イーシャ視点


この砂漠に生まれてもうすぐ80歳になる。この世界の人々はおよそ50から60で寿命が尽きるとされ、魔力を多く持つ者が比較的長生きすることが多い。

そんな中で若い頃から一族1の魔力の持ち主であった私は皆とは違う力が備わっていた。


ほんの先ではあるが未来が見える力

人は神託と呼んだり、予知能力と呼んだり、はたまた神の巫女として呼ばれたりした。

実際に先代の族長と結婚して、一族を導く立場になり時には魔物の襲来や天候不良の予知など役立っていた。

そんな私の師に当たるのは先々代の族長であった。彼女もまた予知の能力があり巫女として族長になり、西の侯爵家との繋がりを作った人物だった。


そしてこの能力が最近低下してきていた。それと同時に孫娘のティナに同じ能力が目覚め始めていた。


私も今回の魔物の襲来がボンヤリと悪い事が東からやってくる事しか見えず、それが砂嵐なのかそれとも何十年かに一度来る蝗害なのか分からずにいた。

ところが孫娘は魔物の襲来があるとはっきりと言って警告を出したのだ。


先々代も予知がしにくくなった辺りに私が力に目覚め、そして亡くなっていった。


どうやら同じ世代に2人はこの能力を持てないようだ。となると私もそろそろお迎えが来るのだろう。

長く生きてきて良かった事も勿論有ったが、周りが自分よりに先に死んでいくのは看取る側としては辛すぎた。たしかにもう疲れ果てているのかもしれない。


どうやら今回の件が最後の務めになるのだろう。その時に一族に伝わる、まさに伝承通りの男が目の前に現れたのだった。


『まずはこの兜を見て頂いて。実は私は…』


兜の裏には大きな鳥と我々砂漠の民を表す馬の紋様が入っていた。


やはり西の白山から神の使い白鷹が来てくれた。だが言い伝え通りだとすると我々にとっても大きな試練が今回の件だと言うことになる。おそらく一族だけでなく砂漠の民全体で大きな被害が出てしまうのだろう。しかしこの男が救ってくれる事もまた然り。


被害が出るのは辛いが救いがあればまだやっていける。後はいかに被害を少なくするか、その助けができるかにかかっていた。



ハジメ視点


何故かイーシャ殿には話しておかねばと言う気持ちになった。こんな感覚は今までに無かった。コレがやはり巫女たる雰囲気なのか?


『とまぁ、色々ありまして今こうしてアナタとお話ししております。』


『うむ。よくぞお話し下さいました。まさか異世界からいらしたとは。それはまさに神の使い、使徒様に違いありませんな。』


『しかし、私はあの時に何か神託めいた物は聞いていないですよ?使命は決めていない、自由に生きろとだけ。』


『もしかしたら、予め伝えていなかっただけかも知れませぬ。使命を伝える事でその事だけに捉われてしまうのを恐れたのか。』


『まぁ、たしかにこちらに来て、とにかく色々と巻き込まれているのは確かです。』


『使命を果たす為の、その膨大な魔力なのかも知れませんし。他人に言いふらす事では無いのは確かですな。』


『えぇ、しかし今回のは何か運命めいた物を感じています。明日からも宜しくお願いします。明日も早い、そろそろおやすみになって下さい。』

『確か少し話をし過ぎたかも。先に休ませてもらいますじゃ。』


話を一旦終わらせてイーシャを空いている部屋へと案内して寝てもらった。元気とはいえ80歳近い老体に変わりはない。


ハジメも部屋に戻り休む事にした、時計を見ると22時を少し過ぎた所だった。

ベットで仰向けになり先ほどの話を思い出す。

(やはり砂漠の民の伝承に俺がこの世界に来た理由と言うか意味がありそうだな。それにまた遺跡みたいな所で少し分かればいいけどな。まずは魔物の討伐が先だがな。明日も早い。頭が回らないと困るから見張は皆に任せてそろそろ寝るか…)




少し時は戻り、ミハエルら南陽騎士団とティナはロラを目指して馬を走らせていた。


魔物の襲撃に遭わず、順調に進んでいたがティナの胸には不安があった。

(何か嫌な予感がする、最近この嫌な予感が増してきている気がする。これが婆様が言っていた予知の能力?)


『ティナ殿何かありましたか?』

馬を近づけてきたミハエルに声をかけられる


『いえ、なんだか何か少し嫌な予感がします。』


(砂漠の民の巫女には予知能力が有ると聞いた事があるがティナ殿が巫女だったのか?)


『もし、何かありましたらすぐ言ってください。おい、何名か先行して前を見てきてくれ。何かあったらすぐに知らせろ。』


『はっ。』

2名の騎士が馬のスピードを上げて抜けていった。


数分後、先行した2名が戻って来た。

『た、大変です!向こうで煙が上がっているのが見えました。まだ町まで先だとは思うのですが。どうされますか?』


『ティナ殿、あの方向には何がありますか?』


『あの方向には我々のタリールの神の神殿があります。ただ普段は人はいないはずですが…。』


『神殿か…。あと町まではどのくらいかかりますか?』


『おそらくもう少しでロラに着くはずです。あの大きな木が町の目印なので…。』


『分かった。気にはなるがまずは町に向かう!到着しだい編成をして馬にまだ元気ある者を神殿に向かわせる。まずは町まで急ぐぞ!』


10数分後

ようやくロラの町に着いた。

幸い町はまだ魔物の襲撃には晒されてなく、ティナ殿の仲介で族長とすぐに挨拶をして事情を話し、神殿方向への調査の為、編成を急がせた。



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