【KAC20236】ロングテール作家の苦悩【アンラッキー7】

なみかわ

ロングテール作家の苦悩

 2030年――







 ――俺は焦っていた。





 俺はネット小説家を副業としている。誰でも手軽に始められるこれは、副業ランキング8位○ーバーイーツより頭一つ出て人気だ。

 電子書籍を登録して、売れまくって巨万の富を得た奴もいれば、売れなくてやめた奴もたくさんいる。俺はそのどちらでもなかった。


 これまでにアップしたのは、6つの掌編小説。ひとつひとつはお世辞にもあまりウケなかったものの、いわゆるロングテール効果で、細々と小遣いを稼げるくらいになっていた。



 ロングテールは昔の商売モデルをぶちやぶった。今すぐ読者が求めていなくても、放置しておけばいつか誰かに買ってもらえる。電子書籍は本屋の在庫の置き場所が要らないから、つまり放置しておけばおくほどチャンスが増えた。




 しかし俺は大事なことを忘れていた。――





 ――本屋側の理由によるリスクがあることを。







 電子書籍の本屋からの突然の告知メールが届き、「この告知から一週間後の0時までに新作を追加していない作家は」とあった。



 そんな殺生せっしょうな、まあでも二日三日でなんとかなると思っていた。



 でも。



 は知らないうちに上がりきっていた。





 AIの進化で、盗作や類字作品の出版登録はできなくなっている。電子書籍を登録するとき、作品のタイトルと粗筋をまず入力するのだが、と判定されると、その先の手続きに進めない。



 俺がこれまで登録した時より、はるかに多くの作品が無限に近い電子書籍本棚に並んでいるから、ありきたりじゃないはずの作品もことごとくとなった。




 ――俺はかなり焦っていた。




 下書きフォルダに入れていた4つは全滅。



 5つ目にひねり出した、『あぷせとねでぶ』もダメ。



 6つ目に絞り出した、『鳴尾浜でもう一度』もダメ。






 古い雑巾を全力で握り力を入れると、繊維の方が握力に負けてぶちぶちと嫌な音を立てる、そんな感覚がした。


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