不運探偵
蒼河颯人
不運探偵
俺は探偵事務所を営む所長である。
俺は自分で言うのもなんだが、凄腕の探偵だ。
依頼された仕事を抜群の推理力と素早い行動力で瞬時に解決し、クライアントから感謝の雨を降らされている。
無論、評判は上々だ。
我が探偵事務所に仕事のない日はない。
だが、周囲からは何故か「不運探偵」と不名誉なあだ名をつけられている。
全くもって不愉快極まりない。
失敬な。
俺を一体なんだと思っているんだ。
ある日の夜、俺は用事を頼むついでに秘書に不愉快なあだ名について尋ねてみると、彼女からややあきれたような返事が帰ってきた。
「え? 何故そんなあだ名が所長についているのかですってぇ? 誰もがそう言いたくなるような日々を送っていらっしゃるではないですかぁ……特に昨日はひどすぎて到頭最高新記録いきましたよ……」
秘書が面倒くさそうにメモ帳へとボールペンを走らせ、そのページを一枚びりりと破ると、所長に渡した。その一枚の紙切れには箇条書きで以下のようなことが書かれていた。
一、 昨日、乳母車に足を轢かれていた。
二、 コーヒーを買おうと自動販売機にお金を入れようとしたら落としてしまい、硬貨が自販機の下の奥へ入り込んでしまった。
三、 先日購入したばかりの所長の新車が昨日追突された。
四、 手の小指の第二関節あたりをやぶ蚊に刺されていた。
五、 昨晩事務所から出たところ、何もしてないのに職務質問で警察官に捕まった。
六、 落とした小銭を拾おうとして、胸ポケットに入れてたスマホを落とした。その結果、画面がヒビだらけ。
七、 昨日外出先から事務所に戻る途中、所長だけ鳩の糞被害にあっていた。
俺はそれをまじまじと覗いた。確かに、昨日の俺はものの見事に七つの不運を被っているようだった。言葉で言い表すなら“アンラッキーセブン”というところか。
だが俺はそれを何とも思わなかった。
要は、それらを「アンラッキー」と思わなければ良いはなしなのだろう?
人間は思い込みに弱い。
思い込むと、見事に作用する。
色々起きることを「アンラッキー」だと思い込めば、ますます我が身に「アンラッキー」の風を呼び寄せるようなものだ。己で己自身を「アンラッキー」漬けにしてどうする。
全くもって、下らない。
だが、不思議なことに、それらを俺は綺麗さっぱり忘れていた。不運なことを忘れているという事は、別に悪い事ばかりじゃないと思うのだが……。
これに対して、君はどう思うかね?
不運探偵 蒼河颯人 @hayato_sm
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