女侍と回転焼き

五木史人

7個のロシアン回転焼き

それは、とても暑い夏の日の夕方だった。

わたしたちは自転車から降り、冷房の効いた回転焼き屋に逃げ込んだ。

自称女侍のわたしと自称陰陽師のきーとくんは、ソーダアイスと回転焼きを頼んだ。


店のお婆さんは、

「もう閉店だから、残りの回転焼き7個も食べていくかい?2個分で良いけど」

と。

「えっいいの?それじゃあ7個下さい」

「でもね、この7個の回転焼きの1つに、外れがあるんのよ」

「ロシアン回転焼きですか?」

「そうだね」

「外れには何が入っているんですか?」

「カスタードクリームだよ」

「それじゃ外れじゃないじゃないですか」

「このクリームを食べるとね、鏡の世界に行ってしまうんだよ」


自称女侍のわたしは、店にある大きな鏡をみた。

全身鏡だ。

「またまた~」

「止めとくかい?」

「いや行きます。わたし女侍なもんで、きーとくんもやるよね」

自称陰陽師のきーとくんは、店を見回し、わたしの耳元で囁いた。

「ここ何かある」

自称陰陽師のくせに、何かを感じたらしい。

「それならなおさらだ、引けぬ!」


出された7個の回転焼きは、普通に美味しそうな回転焼きだった。

「それじゃあ、わたしからいくね、どれかな~」

わたしは真ん中の回転焼きを手に取って、口の中に押し込んだ。


あっ!クリーム!


そう思った時には、わたしは鏡の中に閉じ込められていた。


しまった!


あの全身鏡の中だ。お婆さんがわたしを見てニヤリと笑った。

さらに衝撃的だったのは、きーとくんがわたしを助けようともせず、残りの回転焼きを食べている事だった。


おい!


きーとくんは、回転焼きを食べ終わると、店を出て行ってしまった。


きーとくん!


何てこった!何てこった!何てこった!


わたしが困惑していると、

「だから言ったでしょう」

ときーとくんの声。


いや違う!これは鏡の中の世界のきーとくんだ。

鏡の中のきーとくんは、

「ほら時計の針が反対に回ってるだろう。そのうち慣れるさ」




           

           完






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女侍と回転焼き 五木史人 @ituki-siso

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