七人目がいぬ

さくらみお

七人目がいぬ🐶


 いよいよヤバくなってきた。

 ……何がって?

 この状況がさ。


 ここは天国あまくに高校の3年7組の教室。

 現在この教室には六人の生徒が居る。

 僕こと、鈴木三郎もその一人。


 残る五人も同じクラスメイト。

 みんな言われた訳じゃないのに点々とする自分の席に大人しく座り、教壇に立つ悪魔を見ない様に俯いている。


 そう、目の前の教壇には見るのもおぞましい悪魔がニヤニヤしながら僕たちの【最後の生贄候補】を待っていた――。







 ――その日は夏休みに行われた補習日だった。


 僕らは普通に教室に入っただけ。

 するとそこにはデビルマンの様な格好をしたコスプレイヤーが居た。

 最初は担任の渡辺先生がはっちゃけたのかと思った。


 しかし彼は正真正銘の悪魔だった。

 悪魔は僕らにデスゲームを強要した。


『この七人の中に一人だけ【クラスメイトではない偽物】が居る。そいつをは命を食うことはせず、助けてやろう』


「あ、あの……」


 六人のうちの一人、クラス一の美少女の蓮池さんが恐る恐る悪魔に質問した。


『なんだ』

「私たち、生徒は六人しかいません……」

『もうすぐ七人目が来る。そこからゲーム開始だ』


 僕らは待った。

 すると廊下からひたひたと足音が聴こえてくる。

 やばい、やばい、やばい。


 僕を始めとする、ここに居るクラスメイト達はいつもと変わらない姿に見える。

 嫌だ。なぜこんな事に。僕は失敗すれば悪魔に命を食われて死んでしまうのか……!?


 ガラリ。


 教室の扉が開いた。

 僕らは一斉に顔を上げた。

 誰が来たのだろうかと。


 そして驚いた。



「わん!」



 ピンと立った二つの耳、ふわふわの薄茶の毛並み、くりくりの黒目、笑っている様に見えるニコニコマズル。クリンとカールした尻尾。

 はっはっはと、少し息が荒い興奮気味の柴犬が現れたのだから。


『ゲーム開始!!』

「ちょっと待て!」


 僕は思わず悪魔に突っ込んでしまった。


『……お前、我の言葉を遮るとはなんて命知らずな。お前には今すぐ回答権を与えよう。そして死ぬがいい』

「え」


 ――この悪魔、正気か?


 きっと、(ヒントもなしに答えられないだろう。お前の命は頂きだ、ケケケ♪)ぐらいに思っているのかもしれないが、これは誰がどう見てもクラスメイトの偽物は柴犬だろうが。


 他の同級生達も何か言いたげに僕を見守る。


『さあ、答えよ』

「あ、あの……ちなみに、僕が指名したクラスメイトは当たっていたらどうなるんでしょうか?」

『命を奪い、我の餌となる』

「ええー……」


 僕はチラリと柴犬を見た。

 もふもふの生き物は僕を見上げ、とても嬉しそうに尻尾を振っているじゃないか。


 ……ダメだ。僕にはこの可愛いもふもふを指名するなんて出来ない……!


 僕が柴犬を指名出来ずに苦しんでいると、クラスのガキ大将・剛田が立ちあがった。


「三郎、お前が言わないなら、俺が言うぜ!」

「そんな、私だって言いたいわよ!」

「僕だって!!」


 他のクラスメイト達も答えが見えているゲームの回答権を欲しがった。

 すると悪魔はクスクスと笑い言った。


『いいだろう、先着順だ』


 そういうと剛田は他のクラスメイトを押し退け、柴犬を見た。

 そして人差し指を柴犬に差し向けようとするが、柴犬の健気さ、可愛らしさに人差し指は何時までも宙に浮いたまま。

 剛田は数分間粘ったが、柴犬の可愛らしさに負けてその場に崩れ落ちた。


「だ、ダメだ! 俺には、言えない!!」


「僕も……」

「私も……」


『ククク、さあさあ、誰でも良い。早く指名しろ』


「なんて悪魔だ!」

「言えない! 私達にはあの可愛い生き物を指名するなんて、出来ない!!」


 そう、分かりきった問いであったのにも関わらず、我々は柴犬の爆発的な可愛らしさに指名する事が出来ず、なぜ七人目がもふもふワンコなんだ!? と己たちの不運さを嘆いたのだった。















 ――それからどうしたって?


 悪魔は延々と僕らに指名する様に粘ったが、自分が課した条件が揃わないと命が奪えないのが悪魔。


 いつまで経っても稼ぎを持ってこない悪魔旦那に痺れを切らした母ちゃんに連れられて、魔界へ帰っていった。



 つまり、アンラッキーだったのは悪魔も同じだったって事!


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七人目がいぬ さくらみお @Yukimidaihuku

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