幸運なんて願い下げ

If

幸運なんて願い下げ

 腹が立つくらい完璧な立ち姿。そいつのことは、どれだけ遠くからでも見つけられそうな気がする。


かなで!」


 案の定、奏だった。俺の呼び声に気づいて振り返ると、いつものようにゆるりと笑う。恵まれ過ぎた顔面。半分でいいから、コピペさせてほしい。


「お前、今日二次審査の日じゃなかったっけ?」


 日付を間違えていたかと思って聞いたが、奏はにこにこしたまま頷いた。


「うん」


「え、何時から?」


「もう始まってるよ」


「はぁ!?」


 俺が二度目の叫び声を上げても、相変わらず微笑んでいる。


「辞退したんだ」


「辞退ぃ!? なんで!?」


 俳優を目指す奏は、先日初めてオーディションに応募して書類審査に合格。今日は会場での二次審査を受けるはずの日だった。俺がこうやってエクスクラメーションマークとクエッションマークばかり並べても仕方ない事態が、現在起こっているのだ。


「ラッキーセブンだったんだ。しかも三つ並んでた」


「何が!?」


「エントリー番号。だから辞退した」


「なぜ!?」


「俺、運で合格したくないもん」


 ぱちぱちと、音を立てているんじゃないかというくらいしっかりと俺は瞬いた。そうしながら、今しがた奏が言ったことを咀嚼する。それでも訳が分からなかった。


「訳分からん」


「俺って、受けたら合格しちゃうからさ。で、芸能界入りしたらすぐ売れちゃうから。そしたら雑誌とかでいつか絶対ネタになるじゃん? 運のおかげとか言われたら癪だから、やめた」


 もう一度同じ過程を繰り返して、やっとのことで理解する。段々笑えてきた。


「あっは、なんだそれ」


「最悪の番号だったよ」


 奏はやや芝居がかった表情で悲しんでみせる。


「相変わらずの超絶ナルシ」


「羨ましい?」


「すげー羨ましい」


 こいつの隣にいては引き立て役になってしまうのだが、こういうところが憎めなくて親友を続けている。これからも続けるだろう。中身まで面白いなんて、本当にずるい奴だ。

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