第5話 開門前の平穏
柔らかい陽の光が降り注ぐ昼下がり、
「必要なものは、これだけだった?」
「えーっと……うん。頼まれたものは、全部買ったよ。
「じゃあ、あの美味しいマロングラッセが売ってるお店に、寄ってもいいかしら?」
「……マロングラッセ? あ、もしかして
「そうよ。うちの花瓶用の花束を、お願いしたくて」
「
「頼まれたものは俺が届けとくから、
「ありがとう。じゃあ、私は
「うん。またあとでねー!」
花で埋め尽くされた庭園のような部屋に足を踏み入れた
「
声を掛けると、気だるげな瞳が
「ああ、いらっしゃい」
白衣を翻し、ガゼボから出て来た
「これ、頼まれていたものです。それと、これは私たちから」
「いつも悪いね。ありがとう。これは、マロングラッセ?」
「はい。うちの花瓶の花束をお願いしたくて。ほんの気持ちです」
「わざわざよかったのに。まぁ、ありがたく頂くけど……買い物頼んだの、僕だけじゃないだろうし、大変だったでしょ?」
「いえ、いつもとっても素敵な花束を作っていただいているので、それとこれとは別です。私も
部屋の中の花を見渡し、目を輝かでる
「そう。お礼に、色付けとくね。せっかくだから、お茶でも飲んでいきなよ」
ガーデンテーブルの上に、ティーポットとお菓子が並べられている。その中には先ほど、
ティーカップに口を付けた
「お花に囲まれて飲むハーブティーって、何だか贅沢ですね」
「このくらい、いつでも出すよ。次は、
「ありがとうございます。今度、
「うん。いつも代わりに買い物に行ってもらって、本当に助かってるからね。僕は外に出ようと思えばいつだって出られるけど、出来るだけここを離れたくないから」
感情の読み取れない瞳で、ガゼボを見つめる
「……私たちは、みんなお互い様じゃないですか。私も、他の方にお願いすることもありますし」
「僕らは、神の領域に踏み込んだもの同士。みんなそれぞれに代償を背負ってるから、お互いに意識し合ってる部分はあるよね。だからって“仲間”なんて綺麗な言葉で纏まるような関係でもないけど」
「ふふ。そうですね。私はそういう関係性、結構好きですよ」
「僕ら、やっぱり似た者同士だね」
フッと表情を緩めた
「
「ただいま。あら、何かたくさん頂いて来たのね」
「うん。なんか二人へって、お菓子とか化粧品とかいっぱい貰っちゃった。みんな
「ええ……とっても、とは言い難いけど」
「えっ、どこか具合でも悪いの?」
「……白いユリの花束を、用意されてたわ」
「ああー、そっか……白いユリかぁ」
少し眉を下げた
「白いユリってことは、
「そうね。ここでは、好きな案件なんてものがある人も、ほとんどいないと思うけど……今回の案件は
二人の会話に反応するようなタイミングで、始まりの鐘が鳴る。
昼と夜の狭間、今日も羅針盤が動き出す。
現世の羅針番 水月 尚花 @shouka-m
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