彼のアンラッキー777【KAC20236】

天野橋立

彼のアンラッキー777

 カウンター前に置かれた発券機から出てきた番号札には「777」の数字があった。

 ラッキーセブン三つ分、大当たりの数字という訳だ。ならば、今日は気持ちよく仕事を終えて帰りたいものだった。

 狭い待合室は混みあっていて、並べられた椅子が足りないほどだ。今「766」のお客様が呼ばれたから、私はまだ10人以上先ということになる。壁際に立って、順番を待つことにした。


 カウンターの窓口は三つあって、担当しているのはそれぞれ中年おじさんと、若手の男女一人ずつだった。

 若手二人は手際よく対応を済ませているが、おじさんはずいぶん遅い。丁寧に対応しているようでいて、実はお客様のいうことにノーばかり返している。あれは時間を引き延ばしてさぼっているのだ。


 やがて、カウンター上のサイネージに「777」の数字が大きく表示された。ちゃんと、不親切なおじさんの場所だ。

 やれやれ、アンラッキー7というわけだな、と思いながらカウンターに座り、「よろしくお願いいたします」と私は頭を下げた。


「料金が高すぎて、何とかならないでしょうか。本当に困っていて」

 と真剣に訊ねる私に、

「あー、でもこんなものなんですよ。ほら見てくださいよ、この数字とこの数字がこれこれで」

 と、彼は難しい数字が並んだ説明書を指差してみせる。こんなの、一般の人間に理解できるはずもない。こうやって、ほとんどのお客様を追い返してきたのだ。


「それはそうかも知れませんが、どうしても苦しく……何か別の手段はないでしょうか?」

 私は食い下がる。これも仕事だ。他のお客様のようにはいかない。すると、不親切おじさんはついにその正体を現した。

「あんたね、無茶ばっかり言ってもらっても困るの。決まってることなんだから、みなさんこれで払ってるんだから。後ろでみなさん待ってるんだからさ、ちょっとは他人のことを考えなさいよ!」


 怖い顔でまくしたてられて、気の弱いお客様なら半泣きになるだろう。

 よし、これでアウトだ。


「ええと、××××さん」

 と私は彼の名札に書かれた名前をゆっくりと読み上げた。

「あなた、特例条項29番をご存じないのですか? いや、それほどの知識をお持ちなんだ、知らないわけがないですね。手続きが面倒だからわざと案内しなかった、そういうことですね」


 顔色を変えた彼の前に、私は名刺を差し出した。

「実は私、本部特別監察室のものでしてね。この事業所の評判がどうも良くないもので、申し訳ないが覆面調査をさせていただいたんですよ。あなたの仕事ぶりは身をもって確認させていただきました。後日処分があるから、それまで自宅謹慎をお願いします」


 そう。「777」の番号は、この不親切おじさんにとってのアンラッキー7だったというわけなのだった。

(終わり)






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