マイノリティな少年。

月猫

災い転じて福となす。

「ねぇ、どうして1+1は2になるの? ほら見て! この小さな粘土のかたまり1個と、こっちの小さな粘土のかたまり1個を合わせたら、大きな1個の粘土のかたまりになるでしょ。ということは、1+1は大きな1にもなる。そうでしょ!」


「君は、どうしてそうなんだ! いいか、1+1は2。粘土のことは忘れろ‼」


「でも先生、粘土だけじゃなくて――」


「もういい加減にしろ! うんざりだ。いいか、君の頭は腐っているんだ。頼むから、授業の邪魔はしないでくれ!!」


 教師は、両手を強く握りしめ幼い少年を睨んだ。

 唇と拳を震わせながら、頂点に達した怒りを鎮めようと必死だった。


 ふぅーっと、大きく息を吐き出し一呼吸おくと静かに言った。

「もう、教室から出て行ってくれ」


 少年は、粘土を持って教室を出た。

「先生の言うことは間違っている。だって粘土は、1個と1個を合わせると、大きな1個のかたまりになるんだもん」


 ぶつぶつ呟きながら歩く少年は、外に出ると粘土のことは忘れてしまった。

 空を羽ばたく鳥の姿に魅入り『あぁ。どうして人間は空を飛ぶことができないのだろう? 僕も鳥のように空を飛んでみたいなぁ』と思っていたのだ。


 少年があちこち寄り道をしながら家に帰ると、母親が手紙を握りしめ泣いていた。

「どうしたの? ママ」

「あぁ。今ね、先生が手紙を持って来て下さったの」

「ふ~ん」

「それにはね、お前は超天才だ! この学校で教えることは何もないって。どんな先生だって、お前に勉強を教えることができないって、そう書いてあったのよ」

「へぇ~」

「だからね、明日からは学校に行かなくていいわ」

「わかった」 


 こうして少年が、家で勉強することになったのは七歳の時だったという。

 化学の実験が大好きで、空を飛ぶ薬を作ろうと友だちにヘリウムガスをヒントにした自作の薬を飲ませたことがある。

 友だちが激しい腹痛を起こし、もがき苦しんで大騒ぎとなり、寛容だった母親もさすがに大激怒。

 『人体実験は決してしないこと!』と息子を厳しく戒めた。


 そう、この少年こそが、かの有名なトーマス・エジソンである。

 母が亡くなった後、エジソンは先生の書いた手紙を目にした。


「あなたの息子はおかしい。他の子の迷惑にもなるから、もう学校に来させないでくれ」

 そう書いてあった。

 

 彼は七歳にして、学校を退学になっていたのだ。

 それはアンラッキーだったともいえるし、ラッキーだったともいえるのである。


 アンラッキー7。

 災い転じて福となす。

 母の愛に勝るものなし。

 

        完。


 (このお話は、実話を参考にして脚色しております)

 

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マイノリティな少年。 月猫 @tukitohositoneko

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