最終話

裕太ゆうととカラオケ屋に入る姿を同級生に見られていた。

「なにこれ、浮気?」

私は廊下の隅で、彼に写真を突き付けられていた。

「中学の同級生」

嘘はついていない。

「でも男とふたりでカラオケに行く?」

「マサヤもこの間、ミカんちに泊まったんだってね?」

そう、私は知っている。

同じグループのミカと、私の彼氏マサヤが浮気していたことを。

「それは、さ……」

立場が逆転した。

「相談乗ってもらってたんだよね。彼も彼女と別れたらしくてさ」

「え……」

マサヤが目を丸くしながら、こちらを見る。

「私達、別れよう」

こうして私のはじめてのお付き合いは4カ月という期間で

幕を閉じた。


ゴシップ好きが広めたのか、マサヤとミカは

W浮気していたことがばれ、

学内で孤立した。


私は、浮気されたかわいそうな子、という称号を手に入れ

少しみんなから優しくされている。


でも私にはもう、裕太がいる。

私はかわいそうな子なんかじゃない。


あの日、私は裕太からひかりと付き合って別れたことを告げられた。

「やっぱ俺の幼馴染は、わこだけだよ」

裕太はそう言ってくれた。

私はひかりに勝ったんだ。

裕太は私より、ひかりを選んだ。

昔から、ひかりは私にないものを持っていた。

温かな家庭、優しい両親。

たくさんの友達に囲まれ、男子からもモテモテだった。

私がひかりに勝てるのは勉強だけで、

私はひかりに勝つために、毎日勉強した。

その結果、中学で孤立してしまったけれど

ひかりに勝つための代償だと思えば割り切れる。


ひかりは裕太と付き合った。

私、言ったよね。

小2の頃。裕太が好きだって。

でもひかりは裕太と付き合った。

高校生になったら、気持ちが変わると思ってたのかな。

でも残念だったね。

私はそんな軽い女じゃない。

私は“彼女”とは違う。



K駅3番ホーム、2車両目。

毎週金曜日、私は裕太と並んでここで電車を待っている。

社会人になってからも続けている大事な習慣。

夏休みだと、学生が少なくていい。


私は高校を卒業して、すぐ裕太と同棲した。

でも裕太の手取りは少なくて、私が彼を養ってあげなくてはいけない。

大学に通っている暇があるなら、彼と一緒に過ごしたい。


私は大学を中退して、アルバイトを掛け持ちした。

彼は競馬が趣味で、アルバイトのお金をすべて競馬に当てている。

だから家賃は私が払わないといけない。

裕太と一緒にいるための代償。仕方のないことだ。


「幼馴染は特別だよな」

「俺にはわこだけだから」

「わこに捨てられたら、俺生きてけないわ」

「わこ、好きだよ」

「わこ、今日親居ないんだ」


たくさんの愛を私に伝えてくれるのは裕太だけ。

彼といるときだけ、私は満たされる。

ずっと満たされなかった承認欲求が、今満たされている。


幼馴染の彼氏という立場は、ひかりに勝ったという証。

金貸してと頼られているのは、信頼の証。

記念日を祝ってくれないのは、私といることを当たり前だと思ってくれているから。

私は彼の“彼女”にはなれない。

でも、彼は“彼女”より私を愛してくれている。


今もこれからも、ずっと彼には私だけなんだから。

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彼女な私と、彼女と私 椨莱 麻 @taburaiasa

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