経験の浅さ故にいいわけを重ねるしかない恋愛初心者の男子1名女子2名の過ち

赤川

経験の浅さ故にいいわけを重ねるしかない恋愛初心者の男子1名女子2名の過ち

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 影文理人かげふみりひとという高校1年生の少年がいた。

 背は平均よりやや低め、中性的な容貌で少し陰のある雰囲気。

 家庭環境などの問題で基本的にボッチの陰キャであったが、夏ごろからはそうでもなかったりする。


 姉坂透愛あねさかとあという同学年同クラスの女子は、その夏から友人になった。

 長い髪に愛らしい容貌と明るい表情、身体は一見華奢でスマートだが、出るところは出て引っ込むところは引っ込むというアンバランス体型。

 これで人気が出ないワケがなく、学校のアイドル的存在である。


 姫岸燐火ひめぎしりんかとは、その少し後で友人になった。

 学年はひとつ上。

 メガネでミドルヘアの優しそうで大人びたおねえさんだが、中身は割と子供っぽくイタズラっぽい、そして寂しがりでもある。

 スタイルは中肉中背ながら少しムチッと気味で、出るところのサイズは姉坂透愛にも負けていなかった。


 そしてふたりとも、今現在恋する乙女として戦っている最中である。


 故あって影文理人はひとり暮らしだ。70平米を超える3LDKで東西にバルコニーがあるマンションの6階。

 姉坂透愛と姫岸燐火は、ここがほぼ第2の実家状態であった。部屋も自室状態。置きっ放しの私物も増えた。

 影文理人が仕事で出ている最中でも、合鍵を渡されているので部屋にいる事が多くある。

 半同居状態だ。

 ある理由で、暗くなってから送っていくのも問題ない。


 影文理人は夕食を作っていた。本日は親子丼と、サーモンとアスパラにアボガドのマヨネーズサラダだ。

 レタスとシソを刻み塩昆布であえてまとめていると、姉坂透愛が風呂から上がってくる。


「い、いやーさっぱりさっぱり! でも上がってすぐはホカホカする! いっそ素っ裸でもいい感じー……なーんて、理人くんの前じゃマズいかー!!」


「……ですねッ!」


 スレンダーなのに出るとこ出ている美少女が、ただでさえ短いヘソ出しトレーニングウェアの裾をパタパタ仰いでいる。首元から見える胸元も重たそうに揺れていた。

 ついでに、ランニングパンツから伸びるフトモモも、しっとり汗ばんでいるのがわかる。

 影文理人は割っていた卵の着地地点を間違え、シンクに落としていた。


「フー……ごめーん長湯し過ぎたかもー。おー、おいしそー。

 理人くん前から料理してたけど、最近は凝ったのも上手いよねー」


「で……ですかね?」


 1時間後、姫岸燐火も風呂から出てきたが、着ているのはグレーのパーカーだった。

 それしか着ていなかった。

 ファスナーの前はヘソの位置まで開けており、汗ばんだ胸元と大きな膨らみの谷間が見えている。

 下半身もパーカーにギリギリ隠されているだけで、一見して何も履いてないように見えた。実際履いていなかったが。

 影文理人は親子丼の火加減を間違った。ただでさえ熱し過ぎて卵を固め過ぎないように気を使うのに。


「なに燐火さんそれ聞いてないよッ……!」


「いやー、正直わたしもやっちまったなぁと…………」

 

 陰キャ少年が必死で理性を動員して動揺を表に出さないようにしている一方、奇襲攻撃を仕掛けた乙女ふたりはソファーの上で小声になり戦果報告をし合っていた。

 ふたりともわかってこんな格好しているのだ。

 実際は自分でも恥ずかしい。勇気を目一杯振り絞っているのである。


 影文理人と姉坂透愛、姫岸燐火は良い関係であった。親友とも言っていい。

 ある事件で知り合ってから、日常にアクシデントにと共に経験し、仲を深めてきた。

 気が付けば、家族のような安心感。

 このまま末永く一緒にいられたらいいなぁ、などと思っていたが、フとそこから男女としての間が進展してない事に気が付き、焦った末に今回の特攻と相成ったのである。


 すなわち、エロハプニングを演出し改めて異性をアピールしよう作戦。


 初っ端から少し後悔している乙女ふたりであるが。


「でもこの辺で何かしないとさぁ……。このままだと本当に、この関係を壊したくないから、って仲が発展しないままなパターンに終わっちゃいそうだし。

 わたしなんて理人くんで処女喪失宣言までしたのにぃ…………」


「理人くん……なんかオンナの……美人で年上のヒトの知り合い多いですよね?

 いつの間にかそういうヒトと理人くんがそういう仲になっているのは……嫌だな」


 そうはいっても、もはや後には引けない理由がふたりにはあった。

 なお、どちらが少年と恋仲になっても恨みっこ無し。友達でいられるのに疑いはない、という話になっている。


 だから、エッチに迫っても仕方ないよね?

 そんないいわけを自分と仲間にして、いざ決戦に挑むのであった。


                ◇


 食後、三人はテレビゲームに興じる。

 内容はオープンワールド系で協力プレイCO-OP有りのサバイバルアクション。

 広大な惑星の中で原始的な道具を一から制作し野生動物を狩り狂った機械と戦い部品を手に入れ宇宙への脱出と生還を目指すのがゲームの目的だ。

 

「透愛さん、これはリスナーとやらないの?」


「こういうプレイ時間が長いのは向いてないんだよねー。区切りが無いからリスナーさんの入れ替わりが無いし、次のプレイでそのリスナーさんがいるとも限らないしね」


 ソファーに少女ふたり、影文理人はその前の床に座り、ソファの座面に背中を預けている。

 性格的にあまり冒険に向かないのか、家や生活環境まわりの道具ばかり作っていた。影文理人は冒険が仕事のようなモノなのだが。


「ちょっとお手洗いー。それとコーラ持ってくるね」


「はーい…………」


「あ、冷えてなかったら買い置きが食品庫の中にンッ……!?」


 姫岸燐火がソファーから立つと、影文理人は息が止まりかけた。

 グレーのパーカーが腰の下まで捲れ上がり、白いパンツに包まれた大き目なお尻がむっちりと目の前に現れた為だ。

 流石にパンツは履いた姫岸燐火である。これをノーパンでやる勇気はなかった。

 それでも、隣で見ていた姉坂透愛は、戦友の勇気に敬意を抱き男前な顔になっていたが。

 やった本人は耳まで真っ赤にしていた。


 グレーのパーカーを股下まで引き下げながら、コーラのボトルと3つのグラスを乗せたトレーを持ち、勇者が帰還。

 何食わぬ顔でソファーの上に戻る。頑張った。


「燐火せんぱーい、ちょうだーい」


「はーい、グラス持ってってー」


 姉坂透愛はコントローラーを操る手を止めて、姫岸燐火からグラスのひとつを受け取りコーラを注いでもらう。

 未だ目の前に健康的な肉付きのフトモモが聳え立っているのだが、影文理人はその情熱をゲーム中のノラ機械にぶつけていた。おらバッテリー寄こせぇ。


「あーんやったぁ!?」

「おっと……おぉ!?」

「うわっ、透愛ちゃん早く脱がないと」


 そんな時に、コーラを飲もうとしていた姉坂透愛がグラスを誤って・・・手から取り落としてしまう。

 即反応してグラスを受け止める影文理人だが、そこで、濡れて肌に張り付く姉坂透愛のスポーツウェアと、透けるその下を直視してしまった。


 姉坂透愛はノーブラだった。

 しかも、慌てたようにウェアまで脱いでしまう。

 すぐに腕で隠すが、一瞬見えてはいけない淡い色の頂まで見えてしまった。

 衝撃的過ぎて、メガネの先輩による援護射撃があった事と、この場で脱ぐ必然が無かったことにまで頭が回らなかった影文理人である。


                ◇


 何か知らんが今日は同居人ふたりの様子がおかしい。

 流石にそのくらいの事には気が付いている影文理人は、今は湯船の中でぐったりしていた。

 16年彼女無しの童貞である。

 ようやく女友達という存在にも慣れたのに、その女友達のエロ可愛い部分とかハードル高すぎるのである。現実のハードルなら何百メートルだろうと跳んで見せるが。


 ふたりもこの家での生活や自分に対して遠慮が無くなったという事かね。それにしても警戒無くし過ぎやせんか。そりゃ今日まで性的な事をしようとしなかったんだから安全と判断されたんだろうけどさ。

 だがそれはそれで今後の事が少し心配。

 いやそれは自意識過剰の取りこし苦労というモノか。予定も無いし。

 

 そんな自問自答をしながら、影文理人はお湯の中に顔半分まで沈み込むのだが、


「ごめーん理人くーん。やっぱりわたしもシャワー浴びさせてー! コーラでベタベタしちゃって」


「わたしもついでに入るねー」


「なにぃいいい!!?」


 そのバスルーム内に、無邪気な美少女ふたりのセリフと、陰キャの悲鳴が良く響いた。

 スリムなのに大きなアンバランス美少女と、大人になりかけで肉感的にもオンナらしさに溢れるこれまた大きなメガネ美少女、当然ながらふたりは裸である。タオルで一点だけを隠しているが、他は隠すモノ無しだ。

 この状況では目を逸らす方がむしろ不自然であり、影文理人は逃げ場を失った。

 これなら見てしまうのも仕方ないよなぁ? と陰キャ童貞の中の男の子の部分も、いいわけのようにささやいていた。


                ◇


 二度目の入浴後。

 チャレンジャーの乙女ふたりは、何度目かの戦果報告デブリーフィングを行っていた。


「さ、流石にやり過ぎなんじゃないかな燐火せんぱい!? 理人くんドン引いてたような……?」


「…………でも、効果はあったと思う。正直わたしは勢いでお風呂の中で~、という展開も覚悟してたけど、まぁそこまで理人くんも理性無くさなかったかー」


「せんぱいお尻見せながら泣きそうになっていたから理人くんが理性を取り戻した可能性」


 ふたりはバスルームで攻めた、攻めまくった、決して見せてはならない隠していた部分まで結局まで見せてしまった。意味ねぇ。

 少々どころじゃないほどわざとらしかったか、とか、あそこまでするんじゃなかった、とか、あんなポーズしたのを思い出すと死にたくなる、など後悔は尽きない。


 だが、こんな事でくじけている場合ではないのだ。

 本番はこれからなのだから。


「で……透愛ちゃん、覚悟は、できてる?」


「り、理論は知ってる」


「透愛ちゃんネタに走っている場合じゃないと思うのよ……。わたし達、これからする・・かも知れないんだからね?」


「でも、理論はホントに大丈夫ですよね? アレで……あそこまで流れとかやり方を、確認・・してきたんだし」


「ああいうのは女優さんも演技しているだろうから、リアクションの方は分からないけどね」


 ふたりは事前に、大人の性的行為を実演した映像コンテンツで勉強して来ていた。

 それも、苦労して手に入れた無修正で交配部位の動きまで詳細にわかるヤツだ。

 それなりにショッキング映像だったが、それはいい。

 何せこの後、自分たちで実践するかもしれないのだから。

 戦闘服も用意済みである。


「うー……これ、やっぱり大胆とかそういう次元を超越しちゃっているようなぁ……?」


「それはそうでしょそういう前提の下着なんだもんよ。透愛ちゃんは性格が大人しいから、こういうギャップも振れ幅が大きいと思う」


「せんぱいは? なんか、普通のようなエロいような…………」


「わたしの場合は透愛ちゃんのような下着だとケバくなると思うから。だから色だけは大人し目でね……」


 黒のシースルーも派手な下着と、白と一見して大人し目ながら面積が大分少なくなっている下着。

 エロ下着で意中の男の子を誘惑しようとか考えているこのふたりは、未経験の処女である。

 極めて無謀な挑戦であろう。

 それでも、覚悟完了。0.01ミリの薄いヤツも用意しておいた。心臓が爆動して死にそう。


 そして最後まで事に及ぶつもりで、問題の少年の部屋の扉を叩いていた。


 結果から言うと、空振りに終わった。


                ◇


 影文理人は普通っぽい見た目こそしているが、少し特殊な仕事をしており、24時間いつでも出動する可能性があった。

 今夜も、たまたまそういうタイミングだった、という話だ。


「まぁ、残念なようなホッとしたような……だねー」


「うーん……頑張って気合入れてきたんだけど、またこのテンションと準備が出来る自信がない」


 美少女ふたりは大胆な下着姿のまま、影文理人のベッドでゴロゴロしている。

 肩透かしで力が抜けたのだ。

 もうこのまま寝てしまう勢いである。


「実際理人くんはわたし達のことどう思っているのかねー? イイ感じだと思ってたんだけど……」


「やっぱりなんか、きょうだい、みたいな感じなのかも……。

 今までそんな素振り見せてなかったのにいきなりエッチな本番――――とか、理人くんもビックリするかもしれませんでしたねー。

 考えてみればわたし達だけ準備万端でも、ダメだったかも」


「それもそうか。理人くんもそういう準備が出来てる方がいいわよね。

 今回はこれで良かったとしましょうか。手応えもそれなりだったし……」


 弛緩した空気で、本日最後の反省会。

 至る結論は、乙女ふたりの勇み足であった。

 好きな少年の気持ちがわからない事と、気持ちを考えないことは、別の問題なワケである。

 しかし伏線は張れた、と。

 次回以降もこのアプローチを試行する、という方針で固まった。


「でもさー、理人くんもやっぱり男だったワケよ。おっぱいの方に超目が行ってたし。とりあえずわざと見せても嫌がられはしないと見たね」


「すっごい恥ずかしかったけど、わたしもそれほど嫌じゃなかったみたいな……。ヤダなぁ痴女ってこんな心境?」


「好きな相手だからじゃない? 他の男なら死んでも見せないし。

 理人くんは嫌じゃない、わたし達もそういう目で見られても嫌な気持ちはしなかった。これを今回確かめられたのは大きかったってことかな?

 でも透愛ちゃん……いざ理人くんが野獣になってこう、ガバッ! って乗ってきたらどうする~??」


「ぅひゃぁあああ!? ちょ! ヤダ燐火せんぱい!!」


 まったり今回の企ての感想など言い合っていると、突如メガネの野獣が学校のアイドルに襲い掛かって来た。

 エロ下着の美少女ふたりがベッド上でプロレス状態。

 しかも同姓なので容赦がなかった。

 かわいい後輩をお触り自由な姫岸燐火に、スゴイ所を直で触られ悲鳴を上げる姉坂透愛である。


「んもー今夜は理人くんの代わりに透愛ちゃんを滅茶苦茶にしちゃおう! アレだ、ミアさんのお楽しみもちょっと舐めさせてもらって」


「そんなついでみたいにわたしもてあそばれちゃいます!?

 それに『ミアさんのお楽しみ』のアレって……せんぱい未成年が飲むのはマズいですよ!!」


「舐める程度だからへーきへーき。そうだ、透愛ちゃんが潰れて全裸でベッドに転がっているの見たら理人くんも理性キレるかも♪」


「返り討ちじゃー!!」


 ここに、夜這いかけようとして肝心な男に逃げられた美少女ハンターふたりに仲違いが発生した。仲は極めて良かったが。


 そして、緊張から解放されたテンション、不発に終わった入念な準備、それに大人が酔っぱらうアレという複数の要因により、大事故が起こってしまうのである。


               ◇


 僅か数十分で、影文理人は鎌倉近い自宅から、海を挟んだ遠くの国へ来ていた。そういう特技があるのだ。

 この陰キャは逃げていた。緊急の仕事などありはしない。実のところ、ふたりの真意も分かってはいたのだ。


 ふたりの気持ちに応えられない、いいわけはある。

 いつ死ぬか分からない危険な仕事。素性を隠しているとはいえ、誰に狙われるか分からない危険な立場。そんな自分の人生に、姉坂透愛と姫岸燐火を関わらせるべきではない。

 それに、表の・・自分は、あれほどレベルの高いふたりの美少女に釣り合いの取れるような人間ではないのだ。単なる陰気な男である。


 だが結局はそれらも、大事なふたりに近づき、それに離れていくのを恐れただけなのだろう。


「どうすっかなぁ…………」


 サンフランシスコ、ゴールデンゲートブリッジの橋脚上。

 日本とは16時間差、早朝8時の下界を見下ろしながら、影文理人は被ったフードごと頭を抱えて、出ない答えに唸っていた。


                ◇


 翌朝。この日は日曜だ。

 少女らも、それを見越して決戦日を土曜にしたのだが。


 姉坂透愛が目を覚ました時、少しの間前夜の記憶が戻らなかった。

 しかし、全裸・・のままベッド上で身を起こすと、徐々に顔色が赤や白を反復横跳びしはじめる。

 記憶が戻ってきた為だ。


 恐る恐る隣を見ると、姫岸燐火も同様に全裸でベッドに寝そべっていた。

 昨夜の相手が身を起こしたからか、少し前に目を覚ましている。

 姉坂透愛と目が合うと、見る間に真っ赤になり誤魔化すように笑いながら目を逸らしていた。


「あ、アハハハ、おは、おはよう透愛ちゃん…………。あの、昨日の、さ、覚えて、ますか??」


 何故か敬語。声色も上ずり、明らかにテンパっている。

 姉坂透愛だって、覚えてないと言いたかったさ。

 でも残念、全部覚えている。

 大人の飲み物も味見する程度だったせいか、記憶が飛ぶほどではなかったようだ。


 だがテンションを上げるのには、間違いなく寄与しているだろう。

 でなければ、いくら仲良しとはいえオンナ同士であそこまでの事はしない。


「……いちおう、おぼえてます、けどぉ」


 口とんがらせて渋々認める学校のアイドルである。

 覚えてない、と嘘を言うのは気が引けた為だ。

 何故かは本人にも分からないのだが。


 どちらも昨夜の行為を覚えている、という事が確認できたので、しばし沈黙。

 黙っていると、どうしても強烈なその時の体験を思い出してしまう。

 よもや、好きな男の子との初体験の前に、好きな女の子との初体験を終えてしまうとは。

 ノリと興奮と気持ちよさに任せて、とんでもない変態的行為にまで及んでしまった。これも事前に見た動画のせいだ。


「と、とりあえずお風呂行こうか……? ほら、お互いにカラダを、ね??」


「まぁ、はい…………。あ! シーツも洗わなきゃ……理人くんに訊かれたらなんて言おう…………」


「そこはー……まぁ、大丈夫じゃない? 理人くんもそういう部分には踏み込まないじゃん??」


 お互いの目が合うと、自然とそのあられもない格好の肢体が視界に入り、昨夜の記憶が鮮明になってしまう。

 思わず童貞のように生唾を呑み込む乙女ふたり(男性経験0、女性経験1)。


 そこで、チリリン♪ と。


 ハッと気が付きベッドの足元の方を見ると、そこには影文家の飼い猫が丸くなり、自爆乙女ふたりをのんびり眺めていた。

 この鈴付きの赤いリボンを付けた黒猫、『レター』はただのネコではない。

 飼い主の少年と心で通じ合う、仲が良いのか悪いのかよく分からないネコであった。


「ちょっと待ったーレタちゃん! ちょちょちょちょっとお姉さんと大事なお話しようか!?」


「そう! これは事故! 事故だから! 事故なんで理人くんには特に何も言う必要ないんじゃないかな!!?」


「ワンニャンちゅるちゅる? それともチーズ姫のハニーチーズケーキ!? 何が欲しいかお姉さんに言ってごらん!!」


 いつものジト目を向けながら、ひとりでに開く扉からスタスタ出ていく黒猫。

 美少女ふたりは必死であった。ネコ相手に買収も厭わないほど。

 服を着るのも忘れて真っ裸のまま部屋を飛び出す。

 そうして、ダイニング隣接のキッチンで朝食のコメを研いでいる、不在だと思い込んでいた少年に遭遇した。


 容赦なく全裸で前夜の情交の痕も生々しいふたりは、目を丸くする影文理人の前で、


「ちがうのー!!」


 と、いいわけにもならない悲鳴を上げるほかなかった。




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