60 筋トレはチートらしい


 カシ達が部屋から出ていった後、窓の外から聞こえる宴の喧騒を聞きながらデュアラル王国の国王──オーガスタスは窓掛を締めた。


「どうだった? 彼は」


 椅子を引きながら誰も居ない空間に問う。

 答えが返ってくる訳もないというのに、それは返ってきた。


異邦人フォーリナーであることには間違いないようです」


「ということは、攻め入ってきたということか?」


「いえ。私が知らない国でした」


「? ということは海の外の者か?」


「海の外にもこのような名前の国はございません」


「……どういうことだ。その国の名前は」


「オカヤマという国です」


「知らないな。聞いたこともない。失敗をした訳ではないのだろう」


隠されたモノアルカナは正確に取れましたので、それはないかと」


「そうか。ならいいんだ。他の国からの来訪者なら警戒をしなければならないからな」


 オーガスタスは顎に手をやって考える。その下でモゴッと動いた影があった。

 

「もう出ていいですか……?」


「あぁ、任務ご苦労」


 机の下に隠れていた人物はのそと出てきて、横に立った。

 ふぅとため息を吐くその人物の耳は長く、緑色の髪色をしている。

 今までずっと机の下にいたのだ。すごいね。そういうシチュエーションっていいよね


「ちょっとホコリっぽかったですよ、掃除してます?」


「う〜ん、まぁ、うん。で、隠されたモノアルカナは」


「誤魔化しましたね?……はい、写した紙です」


 ペラともらった紙を見て、ふむ、と唸る


「髪の毛で得られるのは基本的なことばかりだな……それも仕方ないか」


「爪とか歯とかだったら全部分かるんですが、さすがにするわけにもいきませんから」


 やりますか? とスッとペンチを持ってカチカチと音を鳴らす森人エルフにオーガスタスも冷や汗たらり。

 遠慮しておくよ、と目を背けると残念そうに服の中にしまった。


「それでも……そうだな……やはり、あの者は王国軍に引き入れた方がよさそうだ」


「私もそう思います」


 コクと無表情で頷く森人エルフに目を向け、紙を机の上に置いた。


「筋トレ、か。その実態は知らないが……まるで、バケモノだな」




【 名 前 】カラダデ・カシ

【 職 業 】トレーナー

【 出身地 】オカヤマ

【 種 族 】ヒューム

【 年 齢 】25

【 信 仰 】山岸秀匡

【 家 族 】いない


【好きなこと】食事、筋トレ、睡眠、ゲーム

【嫌いなこと】車の運転、虫


【好きな人物】身近にいる人

【嫌いな人物】会話ができない人と「えっ、なんのために筋トレしてるの?」「体がゴツくなりたいくないから筋トレはちょっと」「筋トレしてるんだからこれくらい持てるでしょ」「すぐ筋肉ついちゃうんだよね」って言ってくる人。


【  力  】250+9780(筋トレ)

【 耐久力 】300+12430(筋トレ)

【 素早さ 】200+6540(筋トレ)

【 賢 さ 】200+4400(筋トレ)


【性経験人数】0




「数値が軒並み熟練の兵士よりも高いのが、恐ろしい」

 

「としても、先程の話から【トレーナー】という職業上での数値なので、これが戦士などになった場合にどうなるかはわかりませんが」


「あの体で戦士じゃないことも驚きだ。イリアと角が折れた有角人グラン、勇者。そんな物珍しい者たちに好かれる人望があるのだから、きっと面白いんだろうなあ」

 

 机の上で頬杖をつくオーガスタスの顔を横から眺める森人エルフは、少し不思議そうに首をかしげた。


「その割には少し、不機嫌なように見えますが」


「いやいや、ぼくを越えようとする奴なんて、ここ十数年いなかったから……楽しみだよ、ホント」


 ピキッと椅子の肘掛けの先端にヒビが入った。


角折れパンジーで、ぼくを超えるなんてね。よくも、まぁ……」


 黒い強膜を瞼で閉ざし、椅子にもたれかかって笑みを浮かべる。


「どうやって超えるのか、見物だね」


 


 異世界オリンピア・第一章:世界が変わったから筋肉を鍛えられないというのは言い訳だ──完。

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異世界オリンピア〜真面目に筋トレを教えたいだけなのに、どうしてこうなるんだよ。いいか? 二度と筋トレを成長チートって言うんじゃないぞ〜 久遠ノト @effenote

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