59 なんとか初月の支払いを乗り越えました!



「あははははははっ。笑いをこらえるのに必死でしたよ……ほんとうに」


「笑い事かよ。事前になにも知らせずにあんなこと言いやがって」


「言ったろ、前々から考えていたからな。あ〜、言えてスッキリ。オレを殺そうとしてきた方に言ってやるつもりだったけど、ま、いいだろ」


 パーティーに戻り、食事を取りながら談笑中である。

 ジュリアスがずっと笑ってる。コイツは王様派じゃあないのか。


「あー、でもぼくはさ。イリアを鍛え上げるっていうのかと思ったよ」


「それはぼくも思いました。教官の方かと……」


「イリアは国王と戦うって柄じゃないと思ってな」

 

 コーヒーを飲むところがあったから、ごくと飲んでおく。うん、苦い。

 豆が腐ってんのかって味がする。貴族とか王様とかが集まってわいわいとするならもうちょっといい豆を使うのか?

 まぁ、今日は勇者とその仲間たちが魔女を倒したっていうパーティーだからな。

 そう思うと、この兵士たちは他人の頑張りで飯をくってんのか。

 日本代表が世界大会で勝ったから、家で全く関係ない国民が喜んでパーティーするみたいなもんか。そんだけ嬉しかったのか。


「それに、同じ種族、同じ性別の方が盛り上がると思った。イリアが国王を超えるのに一年もかからんしな」


「ほお……それは」


「おい、オレは一年かかるっていうのかよ」


「角が治ってからだからなあ〜。今まで前例がないことをするんだ。一年でできるかどうかも分からん」


 正直、角が治ったからっていって急激に体が成長するのかもしらんしな。

 

「でも、オレはオマエを勝たせたいと思った。勝って、むきむきな国王になって、この国のどっかの土地をオレにくれ」


 その土地でジムをオープンするのだ。最高だぜ〜。土地代は無料にしてくれるとなおよし。


「結局それが目的かよ」


「へん。オレの夢のためだ。応援してるぞ」


「バカカシ」


「うっせ」


 ふふ、小さいルポムくんはまだオレに力で勝てないからな。

 腕の長さもオレのほうが上。殴れるもんなら殴ってみろ。ほれ、ほれ。


「……それにしても、あれだけ自信があるならなんで国王はイリアを追放したんだろうな」


「あ、それは思った。戦力がどうのこうの言う前に、このネーチャン追い出すなって話だろ」


「イリアを追い出したのは、もうひとつの方さ。仲良かったのにさ」


「? だったら、連れ戻したらいいだろ」 


 ジュリアスはイリアの方を向いて、もぐもぐ食べてる姿に肩を竦めた。


「いいや。本当は戻ってきてもらいたいけど、イリアがいるとあっちの人格が出てきやすいんだ」


「ゴクッ……私は嫌われたのかもしれんな」


 とかいいながらすごく普通に食べてるじゃん。

 

「ま。落ち着いたらまた帰ってきてもらうさ。それまでの間、カシくんお願いしますね」


「おうよ。イリアは仲間第一号だからな」


「そうだな。私の相棒だ」


 ガシと肩を組まれて骨付き肉を食わされた。食いさしだろうっての。

 骨を返すとバリバリ食べ出した。歯つよ。


「……あ。オレのことはまだここにいる兵隊さん達には言ってないのか? 色々と目がキツイんだが」 


「今日はただの祝勝会だからね。また後日に改めて。正式な契約も結んでないんだし」


「契約ねえ〜……」


 金もらってもなぁ、MPに変えれる訳でもないし……。

 ん、MP? 


「あ」


 ビールを飲んでたジュリアスに詰め寄った。


「オレのこと、ここ城の中で知ってるヤツいるか?」


「そ、そりゃあ。騎士団のメンバーや、一部の貴族と事務処理をしてもらうために秘書とか、それに陛下も……」


「それだったのか!!!!!!!」


 バッとMPストアを開いて、残りのMPを確認。


 ──所有MP:1245MP

 

 オレのことを認知してくれたヤツがマイナス分を含めて単純計算で……90人弱?

 認知で20MPだからな。いや、それかもしくは『筋トレの文化の認知:100MP』ってのが「あ、筋トレっていうのがあるんだ〜」でいいなら国王様とジュリアス込みで200だから……80人の認知と2人の筋トレの認知? 


 まてまて、そんな簡単にポイントを稼げれる訳もないか。


 文化の認知だから、知識をしっかりと理解しないとポイントに加算できないハズだ。

 となると……オレのことを認知って考えた方がいいな。

 でも、この王国の人間だけで90人辺りのMPを稼げれるのか?


「まて、口伝てでいいなら……もしかして……」


 今のオレの顧客はあの白金等級になったっていう冒険者三人だ。

 あの三人が広めてくれた可能性も……とりあえず……。


「バグじゃなかったのか……よかったぁ」 

 

 おれ、てっきり残高不足で引き落とされなかった時の「あれ? 金残ってるじゃん」現象かと思った。

 異世界来てから最初で滞納したかと思ったじゃん。


「カシ、大丈夫か……?」


「大丈夫だよ。ありがとう。調子出てきた」


 これで王国軍のトレーナーになれたら知名度も増えて、文化も広がる!

 そしたら……夢のジムオープンに近づく!!

 やったー!! こりゃあ年内でジムのオープンに近づけるじゃないか!! ハッハッハ!!!!


 ガッツポーズからのくるくる回って、ジャンプしてガッツポーズ。


「イリアもルポムもレイも、頑張ろうな!!!」


 手を握ってぶんぶん振った。

 

「じゃあ、その挨拶ってのはいつにやるんだ?」


「すぐではないよ。また声をかけさせてもらう」


「了解した。でも、なるはやで頼むよ」


 ポイントにはあまりがあるから、一月はもちそうだな。余裕のよっちゃんいかか〜? 


「あー、からあげうめぇっ!」


 料理を食べて、話をしてその日は無事に終了した。


 記念すべき初月のMPは無事に支払い終えた。夜に自動引落になってたみたいだ。翌朝のオレはガッツポーズして、最高の朝を迎えた訳だ。笑みが止まらなかった。


「異世界、もしかして攻略できたんじゃねぇか! 順風満帆とはこのことだな!」


 ベッドの上で喜びを噛み締めて、1日を迎えた。 


 ──でも、この時のオレの考えは甘かったことを後で思い知ることになる。

 が、今はこのバカみたいに幸せを噛み締めておこう。

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