冨高くんの不幸話
柊 撫子
不幸な指名
僕の名前は
いつだったかの同級生が僕の名前を音読みし、こんなあだ名をつけてきた。
「不幸くん」。
以来、学年が上がろうと進学しようと、このあだ名は常につけられ続けている。
なんて不幸なんだろう。そうでなくても常に不幸なのに。
乗った電車が遅延するのは数知れず、目の前で購買のパンが売り切れるなんて毎日のことだ。
そんな不幸体質な僕が、理不尽な不幸に見舞われる予感がした。
今は担任の笹原先生による数学の授業中だ。
授業中に起こり得る不幸と言えば、分からない問題に限って指名されることだろう。
何としても避けたいものだ。
笹原先生は授業中の指名には決まって、その日の日付から関連付けている。
つまりは、三月十三日という数字が僕に結びついていなければいい訳だ。
黒板に教科書に載っている数式を数字だけ変えて書き、生徒の方へ向き直る。
「今日は三月十三日。三、一、三で全て足せば七になるが―――」
そう言いながら、出席番号七番の生徒へ視線を送った。
可哀そうに、今回指名されるのは彼になりそうだ。
一般的に七は幸運の数字だと言われているが、この瞬間だけは違った。
彼の不幸を憐れみつつ、自分ではないことに安堵する。僕の平穏は守られたのだ。
笹原先生がその生徒に指を差そうとした瞬間、その腕が止まった。
なぜだ、僕の困惑に答えるように笹原先生は言う。
「そういえば、今日が誕生日の奴がいたっけなぁ」
と言われ、心臓が跳ねる。
笹原先生が学級名簿を開き、指でなぞっていく。
程なくして、それが誰なのか見つかってしまった。
「冨高か。おめでとう、それじゃあ張り切って答えてもらおうか」
三月十三日、それは―――僕の誕生日だ。
まさか誕生日だからという理由で当てられるとは思わなかった。
何て理不尽なんだろう。度し難い。
唐突に向けられた理不尽に、僕はこの言葉しか出なかった。
「不幸だ……」
冨高くんの不幸話 柊 撫子 @nadsiko
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