なまじ数字が読めたせいで
@ju-n-ko
第1話 なまじ数字が読めたせいで
男は事故にあった(※1)。
歩道を歩いていたら、車が突っ込んできた。
普通?なら『異世界転生』するような事故だったが、幸いにも骨折もなく軽傷。
ただ奇妙な後遺症が残った。
「くそう。何でこんな事に?」
男は数字が読めなくなった(※2)。
いや、映像としては分かる。
1、2、3、4、5……
ちゃんと見えている。
しかし、意味が取れないのだ。
医者は言った。
「あなたは頭を強く打っています。その後遺症でしょう。」
「大丈夫ですよ。1か月か2か月か、遅くとも半年ほどすれば元通りです。」
いや、それでは困るのだ。
男は小さな町工場を、両親から継いだばかり。
40半ばだが結婚もしていない。
1人っ子だ。
いずれ跡継ぎの問題は出るが、仕事で結果を出しさえすれば、そちらもついてくるだろう。
だから頑張っていたのだ。
工場は下請けの下請けで、それでも必要とされようと、新しい規格を試したりした。
努力に努力を重ねていたのに。
書類の意味が取れないのだ。
羅列される数字の意味が分からない。調子がいいのか悪いのか、何をすればいいのかがわからない。
ただ、伝え聞くところによると……
会社は過去最大の利益を上げているらしい。
日頃の薫陶がうまく作用している。
男は胸をなでおろす。
とにかく待つしか……
回復を待つしかないのである。
4か月目に入った頃、わからないまでも書類全てに目を通していた。
社長である以上必要なことと思った。
ただ、その日急に、
「おお‼わかるぞ‼」
「売り上げが昨対の130パーセントだ‼これは凄い‼」
明日からは何がやれるだろうと心躍らせ、男が眠りについた夜。
男は両親に、両目を貫かれ失明した(※3)。
会社のためだった。
長いリーチアクションだった。
眠っていたから犯人も知らず、男は社長であり続けた。
会社はどんどん発展し、やがて男には嫁も来た。
「なまじ数字が読めたばかりに……」
知らない方が良いこともある。
なまじ数字が読めたせいで @ju-n-ko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます