男運の悪いオンナ

西しまこ

第1話

 あたしは男運が悪い。


 あたしはちょっとめんどくさい作業の手を止めて、休憩することにした。手を洗って、コーヒーを淹れながら考えた。あたしは男運が悪すぎる。アンラッキーだ。

 こぽこぽこぽといい音がして、コーヒーの香りが漂う。コーヒーは酸味の少ないのがいい。コーヒーが落ちていくのを眺めながら、最初につきあった男のことを考えていた。


 最初につきあったのは高校生のときで、同じクラスの男の子だった。告白されて嬉しくてつきあったが、だんだん宿題をやらされるようになり、テスト前にノートをコピーして渡さなきゃいけなくなり、セックスばかりさせられて気持ちよくなんてないし、ほとほと嫌な気持ちになっていたら、彼が大学受験に失敗したので別れることになった。別れたときは悲しかったけど、よく考えたら正解だった。どうして悲しかったのか分からない。

 次は大学生のときだ。大学生のときに出来た二番目の彼氏は、最初の彼氏と同じようにレポートをあたしにやらせた。こんなもんかって思ってた。三番目の彼氏にはお金を持っていかれ、四番目の彼氏には浮気をされまくった。大学生だったあたしは、男性不審になりそうだった。しかも、どの男も避妊に協力的ではなかったので、妊娠が怖かったあたしは黙ってペッサリーを入れた。それから定期的に性病の検査をした。


 でも今思えば、まだましだったかもしれない。大学時代最後に付き合った五番目の彼氏は異常な束縛男で大変だった。あたしを妊娠で縛ろうともして、ペッサリーを入れていてほんとうによかったと思った。あんな男の子どもなんて、絶対に要らない。


 あたしはコーヒーが落ち切ったので、コーヒーをマグカップに入れてテーブルに移動した。テレビをつけて、なんとなく見る。音がする方が安心する。


 束縛男は別れてくれなくて、大変だった。ただ、その五番目の彼氏は不眠症でマイスリーをもらっていたのが幸いだった。ある日あたしは規定量の倍のマイスリーを朝のコーヒーに入れて男に渡した。彼は事故死して、あたしは解放感を味わった。こころの底から安堵して、どうしてもっと早くこうしなかったのだろうと、後悔した。


 就職して、同期とつきあった。今度こそ、と思ったけれど、同期も駄目な男だった。六番目のその男はお金に汚く浮気癖があり、さらに束縛もしてきた。そのころにはもう諦めの気持ちが強く漂い、どうやって遠くにやろうか考えた。するとその男が会社のお金を横領していることに気づいた。だからあたしは正体を隠して、内部告発をした。男は無事実刑となり、遠くへ行った。


 男は片付けるに限る。あたしは浴室の方へ眼を向けた。


 タケシはいいと思ったんだけどねえ、最初は。浮気もしないしお金を持って行かれることもない。犯罪的なこともしないし、優しいような気すらしていた。

 でも、あたしはタケシが今までの男の中で一番キライだった。

 頭が悪すぎるのも片付けられないのも汚すのも嫌だったけれど、食べ方が汚いのは致命的だった。食関連の一致がないのは痛すぎる。


 さて。めんどくさいけど、生ごみはちゃんと処理しなくちゃね。あたしは新しいのこぎりを持って浴室に向かった。あたしは働き者だから、結構片付いた。後は胴体と頭部をどうやって捨てるかだよなあ。一度に捨てるとまずいから、とりあえず大きいクーラーボックスに入れてある。あたしはクーラーボックスから生ごみを取り出し、細分化するべく、のこぎりを引いた。がりがりがり。硬直している。がりがりがり。

 ――血のにおいが広がった。



   了


「切断」https://kakuyomu.jp/works/16817330654253558372

の続編です。

この話の続編は「今度こそ」https://kakuyomu.jp/works/16817330654477242950です。


一話完結です。

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