【KAC20236】アンラッキーガールななみちゃん

十坂真黑

アンラッキーガールななみちゃん


 あたし、伊藤七未いとうななみはとことんついてない。

 ななみ=七が三つで777スリーセブン。スロットで言えば大当たり。本来は幸せラッキーセブンのはずなのに。神様って理不尽だ。


 今日も登校中、鳥に糞を落とされてしまった。文句を言いながら公園の蛇口で落としていたら、乗る予定だったバスを目の前で逃してしまった。


「あれ、ななみーまだいたの?」


 あたしの後に家を出たはずの姉に、バス停で追い付かれる。


「カラスに糞ひっかけられて、バス乗り過ごしちゃった」


「あんたほんと運ないねー」


 ちなみに姉は『久未子くみこ』で935くみこ


「別にいいもんっ。その分きっといいことあるから」


「道端で百円払うとか?」


「ラッキーがせこい! まあ嬉しいけどさー」


 姉とくだらない雑談をしていると、すぐに次のバスが来た。やった、ラッキー。

 けど、青ざめた顔の乗客がぞろぞろと降りてくる。

 様子が変だ。


「このバスは乗車できません」って、運転手さんが叫んでる。


 アンラッキー?


 最後に降りてきて、運転手が困惑顔で説明してくれた。

 前のバスが事故に遭い、道路が封鎖されたためしばらくバスは動かないらしい。

 それがかなり大きなものだったらしく、死傷者も出そうな勢いだとか。


 突然、横を走っていたトラックがバスに突っ込んできたんだって。


 姉と顔を見合わせる。


 もしあたしがいつも通りそのバスに乗っていたら、今頃どうなってたことやら。

 ぶるぶる。


「事故、裏社会のいざこざが原因らしいよ。抗争相手の関係者がバスに乗ってたんじやないかって」

「こわー。現代の闇って感じ」

 道行く人がそんなことを話している。


 結局、姉とは駅まで歩き、今日は電車で学校へ向かうことにする。


「私、伊藤って苗字地味に嫌い」


 姉が交番を横目に歩きながら言った。


「分かる。陰で色々言われるもんね」


 伊藤=110いとう。なんて皮肉な苗字だろう。


 あたし達にこんなに相性の悪い苗字は他にない。



 だってあたしんち、893だから。

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