7日でわかったこと
雨宮 苺香
- Episode -
私は「ただいま」と言葉をこぼして、返ってこない返事に靴を落とした。
君が出ていいって7日目の夜。
玄関のフックに、冷えた合鍵の上から鍵をかける。
火曜日が嫌い。
カレンダーも見たくないし、テレビの番組表も嫌いだ。
もう7日たったのにって呆れて、7日経っちゃったのかと後悔する。
私は堅苦しい服から部屋着に着替えて、無音の部屋でライターをカチッと鳴らした。そのままタバコに火をつけて、こぼすため息を煙交じりにする。
かすかに残る君の匂いをタバコでごまかさなきゃ生活なんてできない私は、君の痕跡で痛む胸をどう捨てればいいのか分からずにいた。
別れて3日間は会社を休んだ。ご飯が喉を通らなくて、私の心は煮えたぎるような嫉妬心で汚れ腐った。
4日目は土曜日で会社に罪悪感なく家にいて、ただ茫然と空白の1日を過ごして、日曜日には、君がいなくても私の人生は続くのだと現実を飲み込んだ。君の光さえあればそれでいいと思っていた私が少しだけ変わったのに、タバコを買いに外へ出たとき、街並みの中無意識に君の姿を探してしまう私に嫌気が指した。
そして昨日から会社を復帰して、遅れた分を取り戻そうと休憩時間も働き詰めた。その分、移動時間の心の空白に君がふと浮かんで、喉の奥が狭くなるような感覚がして生きづらい世界に瞳が潤む。帰りの電車はその水分に夕日が乱反射するからその綺麗さに世界を嫌いと憎み切れなかった。
7日目の今日は、少し心に余裕が出来て、もう大丈夫かもって思ってたんだけどな。
そう思ってしまったからこそ、いつも通り、ううん、今まで通り「ただいま」とこぼしてしまったんだ。
本当はこの家にすら帰ってきたくないよ。
最低限の部屋で、2人で過ごすには狭すぎる部屋で、近すぎる距離で、過ごす毎日はあまりにも幸せすぎたんだ。
きれいな過去はどうして思い出として残ってしまうんだろう。
邪魔なのに、邪魔じゃなくて、まだ
君に伝えたい話が浮かばなくなるまで、片っぽになった鍵を見ても悲しくならなくなるまで、君への恋はきっと続くんだろうな。
- END -
7日でわかったこと 雨宮 苺香 @ichika__ama
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