【KAC20236】―①『7次元に消えた幸運―アンラッキー7―』

小田舵木

『7次元に消えた幸運―アンラッキー7―』

 幸運の数字は何か?

 そう問われれば『7』を思い浮かべる者が多いだろう。

 だがしかし。

 その数字は、少なくとも僕に取っては呪われた数字であることは間違いない。

 

 こうとでも仮称しようか。

 事の起こりは―

 

                 ◆

 

「君の幸運はに消えた」そうのたまう変なじじぃに捕まったことから始まり。

「7次元だあ?」と僕はホームレスぜんとした爺ぃに問うが。

「そうだ。君の暮らす11次元。その中の知覚できる4次元のに君の幸運は隠された」爺ぃはシケモクを吹かしながら言う。

「…の中に生きてらっしゃる?」常識的にこう問うしかなく。

「ワシをケッタイな爺ぃ扱いするか?」毅然きぜんと問い返す爺ぃ。

「そりゃあ…言ってる事がおかしいもんよ」

「ワシだって好きでこんな事しとるんちゃうわい」不機嫌そうに言う爺ぃ。

「誰にやらされてんのよ?」

「知らん」知っとけ。

「…根拠は?」こうなると話を適当にでも進めるしかなく。

」あっさりしたアンサー。これはイカン。面倒な奴に捕まった。

「帰るところにお帰んなさい」僕は諭す。

「…大地がワシの寝床であり」

「飲みかけのコーヒーやるから何処か行け」こんなモノに関わっている場合ではなく。

「悪いな。でもよ?こうやってワシを追い払った所で運命は変わらんよ」彼は言うが。

「どういう意味だ?」

「繰り返しになるが。。取り返そうにもと言うことじゃ」

「ふむ。その前提をむとしてだ。お前は何者なんだ?」おおよそ人ではなく。

「ワシ?人としての機能を捨てた―じゃ」

 

                 ◆


 じじぃは人ならざるモノだから、7次元も知覚できる。

 オーケー。たぐい

 根拠。見た目に覇気はきがない。以上。

 って。僕は無視を決め込む事にし、出会いの場の河原をさる事にし。


「元気にやれよ」と僕は別れを告げ。

「…ま。実地で感じるほうが分かりやすかろう」爺ぃは飲みかけの缶の中身のコーヒーをすすりながら言い。

「なあ?もし、アンタの言うことが事実だったらよ?どうしたら良いんだよ?」僕は去り際に疑問をていし。

「…ワシは知覚するモノじゃが―」悲しげに言う。

「お前の他に…余剰次元よじょうじげんるモノは?」4次元以上を余剰次元と呼称したはずだ。

「この街の何処かに居るかも知れぬ」

「マジで?」

「だが…ワシは知らんぞ、自分以外の余剰次元能力者のうりょくしゃを」

「何故、街に居ると分かる?」当然の疑問。

「…この近くで。余剰次元にアクセスするのを見たからじゃな」彼は眉間に手をやりながら言い。

「…そいつが居そうな場所…教えてくれ!何でもするから!!」僕はなんだか信じる方向に傾きつつあり。

「ならばを―」

「爺ぃ、僕は未成年だ」学校に遅刻した高校生である。

「若モンのは素晴らしい」よだれを垂らしながら言うな。

「それは止めといてくれ」懇願こんがんし。

「んじゃあ。もう2、3かんをくれりゃあ良い」

「何だよ、簡単な条件出して」

「ワシだって、そんなに性格ひん曲がってない訳じゃ…

「あ、そう。じゃ。ちょっくら自販機行くから」と僕は駆け出し―盛大に転け、そのうえ犬のフンに顔を突っ込み。

「…な。幸運ないじゃろ?」

「認めざるを得ない」…

 

                  ◆


「うひょひょ…アルミ缶じゃあ」と爺ぃは喜ぶ。

「…教えてくれよ、余剰次元よじょうじげんへ干渉するモノの居所を」

「キサマの着とる制服。じゃ」

「…ウチの高校に居るのかよ?人外じんがいが」意外すぎて笑う。

「おるな。あの辺のゴミ箱あさった時に見たから確実」

「んじゃあ。僕は登校するわ。ありがとう、爺さん」お礼を言い。

「死ぬなよ?」と爺さんは僕を見送った。


                  ◆


 手洗い場で念入りに顔を洗った後、僕は3時限目が始まっている教室にこっそり入ってみたのだが。

 世界史の担当に見つかり。こってり説教をかまされ。

 7分ほどしてやっと窓際の席に腰を落ち着け。

「ツイてないね?」声が隣の席から聞こえ。

「…そういう日なのかも」僕は彼女に答え。

海野うんのくん…」彼女は何かを言いかけるが。僕に向かってチョークが吹っ飛んで来。顔面に直撃したのであった。

「また話そうや、鴻池こうのいけ

 

                  ◆


 

 休みを挟んで4時間目―なのだが。

 僕と鴻池こうのいけは2人で学校の屋上に居り。

海野うんのくん。さっき言いかけた事言うね」彼女は言い。

「…もしかして?」僕は思う、不幸中の幸いなのか、はたまた。

「君の幸運…7次元にあるよね?」ああ。僕のらしい。

 

                  ◆


鴻池こうのいけ…お前―人じゃない?」なんて初手で問う僕は確実に間抜けだ。

海野うんのくんとは違う存在であるのは確か」彼女は髪を風にはためかせながら言い。

「おいおいおい…」人は驚くとショックを受ける前にフリーズする。

「ゴメン」申し訳なさそうに言うが。

「何で呑気のんきに高校生してらっしゃる?」問い方がおかしくなりつつあり、って。僕の制服にウンコするなカラス。

「ちょっと前まではタダの人間だと思いこんでいたのよ」彼女はそう言い。

「その姿に合わせて現実が帳尻ちょうじりを合わせているとでも?」

「そう。大きな事象じしょうは混乱の元。ささやかに私達は存在し」

「河原にいるぜ?」僕はこう言うのでやっとで。

「ああ。あの自由な住所のお爺さん」こっちは知っているらしく。

 

「…済まんが」僕は彼女に頭を下げつつ言う―「僕の幸運を取り戻してくれ」

「いいよ」と彼女は言った。

 

                  ◆

  

「お前は余剰次元よじょうじげんに触れるんだな?」確認。頼んどいて何だが。

「一応ね。でも見えはしなんだよね」彼女は申し訳なさそうに言い。

じじぃと協力すりゃあ―」と言いかけるが。そういや僕。「あの人の居場所分かんねえ」

「それは私が何とかする…」

「何から何まで済まん」

「…面白くなるぞお」そういう彼女と昼休みの教室に帰った。ついでの如く階段でつまずいた。

 

                  ◆


 放課後。例の河原に鴻池こうのいけと来た。

 実質じっしつ初デートで相手が人外だと知る不幸アンラッキー


「んお!」じじぃはテントで酒を喰らっており。

「連れてきた」僕は鴻池を示し。

「こんにちは。お仲間さん」鴻池は爺ぃに挨拶し。

「なるほどのお…ワシで『見て』彼女で『掴む』…お前さん幸運を無くした割にやるじゃないか」爺ぃは赤い顔を僕に近づけ。

…神もそこまで性格悪くないらしい」

「ま、だと思うけど」鴻池は言い。

「しかし。じゃ。ワシはタダじゃ動かんぞお?」と彼は言うが。

「そういうと思って。オヤジの酒からパクってきた」僕が示すは7年モノのウィスキー。

「しっかたねえのお」ジジィはたたずまいを直し正座をし。右目を塞いで左目で僕の周囲を見はじめ。「ああ。」と言う。なら―

「朝に言わんかい!!」

「ケツ出さないヤツにはこう」

「死ね」

「死ねん」

 

たわむれるのはそれくらいにして」鴻池は言い。

 

「それじゃあ―お願いします」僕は彼女に頭を下げるのだが。

」鴻池はかくのたまい。

「お前もかよお…」こう嘆息たんそくするほかなく。

「さあ。私交渉して」彼女は言うが。一体なにをお望みで?

「…何をお望みですか?」かく言うしかあるまいて。

 

貴方あなたをちょうだい」彼女は僕の目をまっすぐ見えて言うが。

 

「具体的には?」そう、言ってることが曖昧あいまい過ぎ。

「貴方の…」

「マジで?」

「嘘。でも君のかな?」そういう彼女は顔を赤くしており。

人外じんがいからの告白!!」と叫ぶしかなく。

「さあ、選びなさいよ」彼女は言う。

 

「…やるよ」僕は覚悟を決め、そう言い。

 

                 ◆


「―ええまあ。そういう出会いがありまして」タキシード姿の僕は披露宴場ひろうえんじょうのステージでそう言い。

「…そう言う訳でありまして」彼女が言葉をぐ。

 会場は笑いに包まれ。

 ああ。みんな、マジに取ってねえなあ、と僕は思い。

「仕方ないよ、この姿の私が人外だなんて思わないって」耳打ちする彼女。

「本当なんだけどなあ」と僕はつぶやく。


 7にまつわる不幸アンラッキーは終わりはしたが。

 もう1個増えた不幸―いや幸運ラッキー―はまだ続く。

 はたから見たら不幸なのかも知れない。

 だが。不幸であるというのはある方向からの景色であり。

 別の次元を経由した目線からは幸運にも見えたりする。

 

                 ◆



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【KAC20236】―①『7次元に消えた幸運―アンラッキー7―』 小田舵木 @odakajiki

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