だから、これまで逃げたことやダメな部分を引き摺り出さないでくれ。ようやく殻を外したのに、いきなり世間が攻撃してくるのは何故だ? その対応は常識では当たり前で、だから彼は傷つけられているのか? 勘弁してよ。さらに追い出さないでくれ。※剥き出しの感情に圧倒されます。主人公の決意を揺るがせる場面に憤りを感じましたが、タイトルの意味に気づいてゾッとしました。世の中の厳しさに泣きました。
何もかもが上手くいかない、やぶれかぶれな人生。哀れな男の咆哮が、虚空に木霊する。それは一種の切なさを伴って、私たちの胸に滲み入る。この男は醜いが、それ故に純粋なのだ。
人は誰しも弱さを抱えて苦悩する。しかし小綺麗にまとまった社会の中で、人はいつしか自身の内に潜む弱さと対峙することが少なくなった。その中で不器用に自分の弱さと闘い続ける主人公には、さながらエサウの元に帰る間際、神と相撲を取り続けたヤコブのような切実さを見出す。闘いの果て主人公が河を渡り、そこに待ち受けていたものは、ヤコブにあった感動的な再会ではなく、底知れぬ他人からの悪意だった…現代社会における闇を鋭く切り取った秀逸極まる作品。着飾った虚構の姿形ではなく、生身の魂に触れる。