あんラッキー7
歩
災い転じて?
近所に、和菓子屋が出来た。
「ふーん……」
何気なく入ったのは、俺が甘味好きだからだ。
有名店のチェーンってわけじゃない。
老舗ののれん分けでもない。
こじんまりとしたお店。
狭い店内も、しゃれた明るい洋風カフェスペースもあって。
若い女性にも好まれそうだが、俺もこういうのは嫌いじゃない。
洋菓子だって行ける口だからな。
酒は飲めないんで。
一目で気に入った。
味も、なかなかだった。
あんこが絶品で、黒々としたそれは、粒あんにしても、こしあんにしても、丁寧に作られているのがよく分かる。こってりとして、舌に残る。それがまたいい。
抹茶、ほうじ茶、さらに紅茶、コーヒーと、その和菓子に合う飲み物、絶妙なチョイスで組み合わされているのもたまらないじゃないか。
近所にこんな店が出来てくれるなんて。
毎週通い詰めて、七日目。
「いつもありがとうございます」
「……あっつぅ」
「あ! ごめんなさい、大丈夫ですか!」
「い、いえいえ、大丈夫です!」
長い髪を束ねた、黒々とした大きな瞳が特徴的な、肉感的な女性。
表現変えれば、ぽっちゃり。
標準よりはかなり。
こんな女性、いたのか。
……。
こ、好みだ。
見とれて、思わずお茶をこぼしてしまったのだ。
みっともない。
幸い、少し手にかかった程度、ヤケドなんてしない。
それでも彼女は気遣ってくれて、
「すいません、すいません……」
と、繰り返す。
その謙虚で、健気で、一生懸命なところもますますタイプだ。
俺は常々、
おっとりしたふくよかな女性というのもいい。ぽかぽかとひだまりのようで、その柔らかな胸に抱かれたら、バブバブと赤ん坊にも返ってしまう。
い、いいじゃないか!
なかなか理解されないが、俺は好きなんだ!
包み込まれる母性こそ女神、男にとって最高だ!!
ああ、女神さまの降臨だ。
「いえ、大丈夫ですよ」
と、スケベ心を隠しつつ、紳士を装う。
自慢するが、俺はけっこうモテる。イケメンの部類だ。その自覚はある。
甘味好きだが、痩せの大食いというやつで、すらりとした体形もしている。
職場でも、ひそかにうわさされているのは分かっている。
熱い視線を投げかける彼女たちの前を颯爽と歩くのはなかなか、男の矜持を満たしてくれて気分がいい。
だが、俺好みのチャーミングな女性はなかなかいない。
せっかく出会い、やっと付き合っても、いつも何故か彼女たちは痩せたがる。痩せていく。
「貴方と釣り合うようになりたいの」
違う、そうじゃない!
そうじゃないんだ!!
俺は、君の、その、体が……。
ぷにぷにの、さわり心地が……。
それこそ至高! 最高! 女神の姿!!
コ、コホン、失礼。
と、ともかく、あまり長続きしないのだけは、確かだ。
今まで5人の女性と付き合ってきたが、今までどの方も……。
6人目!
どストライク!
これを逃してなるものか!
このチャンス!!
「ありがとうございました」
「それじゃあ、また」
にこやかに、爽やかに。
がっくぅ……。
店から出たとたん、肩を落とした。
何事かと、犬の散歩のご婦人がいぶかしげにしげしげと見てくるけど、もうどうでもいい。
ああ、この店も今日で最後か。
「申し訳ありませんでした!」
奥から出てきたのは、旦那さん。
老舗で修業して、地元に帰って、老舗では看板が邪魔して出来ない店を作りたいと、奥さんと。
……奥さんと!
そう、あのぽっちゃりが素敵な方! すでに人妻!!
お詫びの品と渡されたのは、ミニ大福の7個セット。
それぞれ、あんこの味、包まれた果物も取り合わせよく違って絶品。
それが一口サイズで。
すでにこの店の名物になっているが、「あんラッキー7」と洒落の利いたネーミングに、箱もまたお洒落。お土産に最適とSNSでも話題になりつつあって。
それをもらって、いやな気になどなりはしないけど。
とぼとぼと帰る。
今日はやけ酒!
……は、下戸には無理だから、この七つ全部、やけ食いだ!!
あー……。
俺の女神さまぁ……。
どこにいるんだ……。
「キャ!」
「あ、すいません……」
ぶつかってしまった女性は……。
こ、好みだ。
「いえ、こちらこそ……。あ、それ、あのお店の! 私、大好きなんですけど、今日はもう売り切れと……」
こ、これは、チャンス再来!
今度こそ、「
あんラッキー7 歩 @t-Arigatou
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