七つの不運、一つの償い

惟風

七つの不運、一度の償い

 奥さんが急に産気づいて病院に搬送されたんだよね。職場に連絡が来て慌てて階段駆け下りたら最後の一段を踏み外してコケちゃって。

 それは果たして不運かな。それとも不注意?

 まあそれだけなら不運だろうが不注意だろうが「よくあること」で済ませられたんだけど。

 コケた拍子に運悪く靴紐が解けて。

 不運にもそれに気づかなくって。

 不運にも自転車のペダルに巻き付いて、

 不運にも信号を渡ってる最中に自転車がバランス崩して横転し、

 不運にもそこへ信号無視の車が突っ込んできた。

 留まるところを知らない災難は極めつけに、打ちどころの悪かったオレの命をあっけなく奪ってった。

 我ながら「嘘だろ……」って思うテンポで死んだよ。

 ホント死ぬ時っていきなり。

 世の中、何が起こるかわかんないもんだよねえ。

 ねえ?



「うるせえよ」


 河川敷で絵のスケッチをしていたら、幽霊が自分語りをしてきた。真っ昼間だしそこそこ人通りがあるのに、他の人達には見えていないらしい。

「ゴチャゴチャ話しかけてくんなよ集中できねえだろうが」

 変なモノが見えるのはよくあるからいつもは無視するが、あんまりにもフランクに話しかけてくるもんだからつい反応してしまった。

「ねえ、何描いてんのよく見せてよ」

 よく喋る半透明の男はヘラヘラしながら顔を近づけてきた。嫌な予感がした。何かヤバいことが起きる気がする。こういう時の直感には従った方が良い、というのを経験的に知っていた。

 慌てて荷物を片付けて河川敷を後にする。意外にも、幽霊は追ってこなかった。

 歩道に上がってから、恐る恐る振り返ってみる。

 もう、どこにも幽霊はいなかった。ちょうど一人の釣り人が何か釣り上げたところだった。夕日を反射してキラキラと光る、大きな何か。



 巨大なオオメジロザメだ!

 それは不運にも釣り針に引っかかった鮫だった!

 アンラッキー・シャークだ!


 驚く暇もなく、アンラッキー・シャークは突然次々と分身した。その総数、実に七頭。


 アンラッキー7・シャークだ!


 凶暴なサメ達は早くも通行人達に襲いかかった。血飛沫と悲鳴が乱れ飛ぶ。


「逃げろ」

 気がつくと、俺のすぐ隣にさっきの幽霊がいた。

「この道の東に、サメハンターがいる。走れ!」


 俺は無我夢中で走った。

 走りながら、思い出していた。

 馴れ馴れしい幽霊の顔が、仏壇に飾られた写真にそっくりなことを。





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七つの不運、一つの償い 惟風 @ifuw

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