短編84話  数あるギャモン大会へ鍛え上げるぞ!

帝王Tsuyamasama

短編84話  数あるギャモン大会へ鍛え上げるぞ!

「おっ、俺も大会に出られる?!」

「ああ。一年生だけで行われる大会だし、新入部員は四人。全員が出られる」

「くぅぅぅ~~~っ…………!」

 俺の名前は大甲斐おおがい 禅雪ぜんゆき

 念願だったバックギャモン部に入部したての中学一年生!

「よかったねぇぜんちゃーん」

 この同級生女子は真雛まひな 悠侑ゆうゆ。幼稚園からの仲で、小学生時代まで唯一、対面でバックギャモンを打った相手だ!

 というのも、オレがバックギャモンと出会ったのは、小学一年生。

 テレビテレビジョンでやたらギャラリー観客が盛り上がりつつも、画面の真ん中では向き合って座る二人が、なにやら筒を持って、そこから箱の中にサイコロを落としていた。

 父さんに聞いたら、バックギャモンというボードゲームである、ということがわかった!

 観客の盛り上がりっぷりに熱くなった俺だったが、これがまぁ周りの友達では、だれも知っているやつがいない!

 だがとある日に、雑誌で見たんだ。海外では……エクストリーム・バックギャモニング・チャンピオンシップなるものがあると!!

 ある時は山の頂上で。ある時はプールの中で。ある時はサファリパークの檻の中で。ある時はヘリコプターの中で……様々な場所でギャモバトっているギャモラーバックギャモン愛好者たちがいたのだ!

 将棋・囲碁・チェス・麻雀……どのボードゲームにもない、観客の熱狂っぷりに、俺のハートはギャモニング!

 よく俺の家へ遊びに来ていた悠侑にだけは、ルールを仕込んでギャモっていたが、小学校でのクラブ活動には、バックギャモンクラブなんてなかった。

 そうしてようやく、男子は学生服・女子はセーラーに身を包みし中学校へと進学した今年。(ついでに悠侑も連れて)念願のバックギャモン部に入った俺!

 思いっきり強いやつと戦いたいと思い、入部早々、高牧たかまき 慶三郎けいざぶろう部長に戦いを挑んだ。

 ……完膚かんぷなきまでにたたきのめされて、むしろ清々しいくらいだった……。

 そんな俺も、ついに……つい~に大会に出場できるというのだ!!

「対戦形式とか、どんな感じっスかぁ?」

 こいつは同じく新入部員の男子、先場さきば 乱児らんじ。別の小学校からやってきたようで、ここで初めて出会った。

 身長は俺よりも高いようだが、なんだその細い腕や脚は。身体は俺の方が鍛えているぜ!

(どこでどんなバックギャモンの大会に参加できるか、わからなかったからな!)

「開催される部門は、男子個人戦・女子個人戦・男女混合タッグ・団体戦よ。四人しかいないから、団体戦は出られないわ」

 この先輩は片野かたの 芽衣美めいみ先輩だ。部長と同じく三年生で、このバックギャモン部の副部長だ。

 部長があんなに強いんだ。副部長も、さぞかし強いのだろうな。

 短めに切りそろえられた髪に、あのきりっとした目。まさに勝負師だ。身体は俺の方が鍛えているだろうけどな!

「個人戦に男女それぞれ一人ずつ。残りの二人が混合タッグ。君たちで相談して、だれがどれに出るか、好きに決めるといい」

 やはりバックギャモン部の部長というのは、このくらいのオーラが必要ということか……身長はさほど高くないが、腕を組んで立っているその姿だけでも、強ギャモラー感がひしひしと伝わってくるぜ……。

(部室で負けるようじゃ、山の頂上で戦ってもプールの中で戦っても、勝てるわけないだろうな……)

「悠侑どうするー? 禅雪と同じ小学校らしいし、その二人でタッグ組むー?」

 こいつは新入部員の業前わざまえ 楓夏ふうか。よく髪をひとつにくくっているが、それはいつでもギャモれるようにという、戦闘態勢の表れなんだろうか? 悠侑は『ポニーテールかわいいねぇ~』とか言っているが……。

 悠侑よりは身長が少し高い。テニスの経験があるらしいから、悠侑よりは身体が動くだろう。俺の方が鍛えているだろうがな!

「はぇ!? わ、私弱いよ? 私なんかと組んだら、ぜんちゃんに迷惑かけちゃいそう……」

 それにしても、悠侑をバックギャモン部に誘ったとき、よくついてきてくれたと思った。どんな過酷な状況でギャモるともわからない、バックギャモン部なのだぞ?

 悠侑は、それほど身長が高くない。髪は肩を少し越えるくらい。

 そんな悠侑、実は身体があまり丈夫じゃないらしく、毎年どこかで必ずかぜをひいている。

 ……きっと、新たに始まる中学生生活で、過酷なバックギャモンの戦いを通じて、己の殻を破ろうとしているのだろう。

 その漢気おとこぎ、いや女気に、俺もこたえてやらねばな!

 この三人に俺を加えた四人が、今年新たにバックギャモン部へ入部した、中学一年生の新入部員たちである。

「そんなつまらん言葉を言った覚えはないぞ! いいだろう。悠侑の女気、この俺にぶつけてみろ!」

 ほうら見ろ。悠侑は今、前へと進む道を探しているのだ。それを俺が導いてやれば、

「……うんっ! ぜんちゃんがそう言ってくれるなら、私、ぜんちゃんと組む!」

 このとおりだ!

「じゃ、あたしらは個人戦だね」

「気楽にやりますか~。あぁ先輩、練習とかどうするんスかぁ?」

「練習方法は、君たちが自分で考えて、実践してくれて構わない。もちろん、僕たちと手合わせしたいときは受けて立つし、知識を深めたいのなら、資料を用意する。遠慮なく僕たちを使ってくれ」

 なるほど、駆け引きのあるバックギャモンだからこそ、己を律する心をも鍛えろと、そういうことなのだな……!


「ぜんちゃんー。私たちは今日、何するー?」

 悠侑がまだ大会に出るには足りない部分……それを俺の手で、手助けするとすれば……。

「悠侑。今日は体育があったな」

 ちなみに悠侑とは、入学早々クラスも同じである。

「ふぇ? う、うん。それがどうしたの?」

「体操服に着替えろ」

「え、えっ?」

「副部長! 悠侑と外で鍛えてきます!」

「いってらっしゃい。帰りの点呼までには帰ってくるのよ」

「いってきます!」

「ふぇぇ~~~!?」

 俺は悠侑の左手首をつかみ、部室の外へ連れ出した。



「まずは体操!」

「はぁ~い」


「腹筋始め!」

「はぅ~ん」


「続いて背筋!」

「ふぅ~んっ」


「腕立て伏せ!」

「はあ~。ぜん、ちゃん、バック、ギャモン、はぁ~?」

「身体を鍛えずに大会へ出るつもりなのか!」

「ふぇ~」


「V字バランス!」

「む……りいぃ~……」


「開脚後転!」

「んん~ひゃあっ」


「伸しつ前転!」

「ふぁ~。立てないよぅ~」


「ロンダート!」

「できないよぅ! えっ? すごぉいぜんちゃんかっこいい~!」


腕立て前方回転ハンドスプリング!」

「できないってばぁ! わあぜんちゃんかっこいいかっこいい!」


「冷水機で水分補給後、走り込み!」

「ひゃつべたっ。は、走るのぅ~?」

「己に勝て! 悠侑!」

「負けそうだよぉ……」


「続けてなわとび!」

「きゅ、休憩しようよぅ……」

「ならば見ておけ! ふんふん二重跳びからのはやぶさふんふんふんっ!」

「すごいすごーい!」


「いくぞ! この俺のスパイクを受けてみろ! うおらあー!」

「ひゃああーー!! こらぜんちゃん! そんな強いの顔に当たったらどうするのぉ!」

「あ……そ、そうだったな。バレーボールのように、直接当てる球技はやめておこう」

「もうっ! ぷんぷん!」


「いくぞ! すおりゃあ!」

「あーん。楓夏ちゃんじゃないから、テニスなんて無理だよぉっ」


「おや、時間だ。今日のところは、ここまでにしておこう」

「はぅ~……もうむりぃ……」


「ただいま戻りました!」

 俺と悠侑は、また学生服とセーラーに着替え、部室に戻ってきた。

「おかえりなさい……大丈夫?」

「ふぇぇぇ~…………」

 さすがは悠侑だ。根性がある。

「これからしばらく、外に出ることが多いと思います!」

「それは構わないけど……大会まで、そんなに汗だくになるくらい、運動するつもり?」

「もちろんです! 大会ですから!」

 大・会! いい響きだ……。

「は、はぁ。まあ、やる気があるのはいいこと、かしら……? けがには気をつけるのよ」

「わかりました!」

「はぅ~」


 こうして、今日のバックギャモン部の活動が終了した。いい汗をかいたな!

 バックギャモン部に入ってからというもの、悠侑は俺と一緒に帰りたいらしく、今のところ部活部活動が終わってから、毎日一緒に帰っている。

 どうだろうか。今日は悠侑の女気に、俺は少しでも手助けできただろうか?

「あぅ~。これ明日筋肉痛だよぅ……」

「ならば休みの日も鍛えなければ! 悠侑、休みの日も会おう!」

「へっ? あ、え、えとっ、あのぅ……」

 両手の人差し指の先を合わせている。なかなかの命中精度だ。

「……ほ、ほらぜんちゃん。毎日鍛えるんじゃなくて、おやすみする日も入れた方が、逆に筋肉さんにとっていいことだって、聞いたことない?」

「む? 確かに……」

 これまでのように、闇雲に鍛えるだけでは、強豪集いし大会だと、勝ちきれぬかもしれないな……。

「だ、だからねぜんちゃん」

「なんだ?」

 上目遣いでこちらを見てくる悠侑。うむ、ギャモラーらしい、いい目つきだ。

「おやすみの日も、あ、会おう? でも一緒にゆっくりしよう? ど、どう、かな?」

 タッグ戦を意識して、様々な場面を俺と共に過ごそう、というわけか……大会を見据えるその決意。受け取った!

「いいだろう。休みの日は筋トレをせずに会おう」

「やったぁ~っ!」

 今日無理だ無理だと言っていた割には、今こうして笑顔まで出せている。やはり根性があるな!

「しかし身体を鍛えないとすると、会って何をするのだ?」

「え、えっと、じゃああのっ、で、電車に乗ってお出かけしようっ? ぜんちゃんと、映画観たり、パフェ食べたりしたいなっ」

 電車に乗って、映画にパフェ……電車で釣り革を使わず立てば、体幹のトレーニングになりそうだ。

 映画の展開の構成を考えるのは、バックギャモンの試合展開を考える練習だろうか。イメージトレーニングも大事だからな。

 パフェは、たしかアイスクリームとかコーンフレークとか、いろいろと乗っているな。どこからどう攻めるか……最初の重なった状態を、どういう順番で崩していくか……なるほど。バックギャモンのチェッカーを動かすことと、パフェを食べる作業は、どことなく通ずるものがあるな。

「いい提案だな。よし、休みの日は悠侑に従おう。俺としたいことがあれば、遠慮なく言ってくれ」

「本当っ!? わあいわあいっ! えへへ~、楽しみだなぁ~」

 今日は少々、俺中心すぎたな。悠侑に自らの役目を与えさせることも、大事だったな。

 なかなかにいいギャモラー素質を持っている悠侑となら、次の大会…………

(……勝てるっ!!)

 ……ところで、大会の会場はどこなのだろうか。山か川か、はたまた海か……明日、部長か副部長に聞いておこう。

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短編84話  数あるギャモン大会へ鍛え上げるぞ! 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho

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