脱ぎたい鎧
寺澤ななお
脱ぎたい鎧
好きでこうなったわけじゃない。
ただがむしゃらに生きていただけだ。
幼いころに蒸発したクソ親父のせいで、母は四六時中仕事に追われていた。
したがって私は家事をしながら二人の弟の面倒をみなければならず、常に体を動かし続けた。女性らしからぬ筋肉がついてしまったのは私のせいではない。
中学校3年生の時、地元で有名なスポーツ校からスカウトを受けた。中学陸上部の助っ人で砲丸投げに出場していた私を見ていたとのことだ。
新しく立ち上げるレスリング部に特待生として来てほしいと声をかけられた。ただで高校を卒業できるのだ。断る理由もなかった。
全国出場こそ遠く及ばなかったが、レスリング部の礎を築いたことが評価され、大学の推薦をもらえた。もちろん学費はかからない。本当に幸運だったと思う。
小学校、中学校の時のあだ名は「メスゴリラ」だったが、スポーツ系の進路に進めば、自分より屈強な人間はいくらでもいる。自分が並の人間でいられる環境はとても居心地が良かった。
それでも、街に出た時、私は《普通》の女の子ではなくなる。
周りの男たちは「筋肉は唯一無二の鎧だ」とほざくが、
本当に鎧であるならば私は今すぐ脱ぎ棄てたかった。
――彼に出会うまでは
大学の友人から紹介された
筋肉の鎧で覆われた私の体を「かっこいい」と呼ぶ人はいても、男性から「きれい」だとほめられることは初めてだった。
慧は私と出会った初日に「付き合ってほしい」と言ったが私もそこまで軽くはないのだ。
「どうしたら付き合ってくれますか」
「私をお姫様だっこできるようになったらね」
適当な言葉ではぐらかしたつもりだったが、慧はまじめだった。
翌日からジムに通い体を毎日鍛えて続けているようだ。
目標達成するにはまだ時間がかかりそうだが、私はさらに筋肉を磨いて待つことにする。あなたが褒めてくれた私だけの鎧を・・・
脱ぎたい鎧 寺澤ななお @terasawa-nanao
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