美狂い殺人鬼

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美狂い殺人鬼

 私にとって人間は材料なんですよ。絵描きはキャンバスに絵を描くでしょう。私にとってのキャンバスは人間なんです。


 なぜ人間だったかというと、人間ほど興味深い材はないからですね。十人十色という言葉があるように、人間はそれぞれとても個性的だ。各々にとって、自身の美を最も引き出せる表情や角度、ポーズ、そして瞬間がある。


 しかし残念なことに、誰もそれを理解していない。嘆かわしい。いや全く、愚かなことでもあります。自身を自在に操れる筋を持ちながら、なぜそれを有効に活用できないのでしょうか。きっと美感が死んでいるんでしょうね。醜くて醜くて、あれでは可哀想です。ですから私が代わりに動かした。それだけです。生きたままでは駄目です。私がどれだけそれぞれにとっての至高の美を教えようとも、すぐに無様に動いてしまう。だから動けないようにした、ということですね。


 私の作品群、素晴らしかったでしょう。本当はもっと多く作品を生み出したかった。日本警察が無駄に優秀なのが無念でなりません。それが分かっていたから、十七作を一晩で完成させたんですけどね。骨が折れましたよ。


 どれも気に入ってますが、最高傑作は妊婦だった彼女でしょう。ほっそりとした体躯に大きく膨らんだ腹。私が手を加える前から、実に見事なシルエットを持っていた。その造形美を最大限に活かすため、服などという余計なものを取り払って、片手を高く掲げて腰をくねらせ、脚部にも動きを出しました。表情も工夫しましたね。胎内の我が子を慈しみつつ、己の身体の変貌と負担への恐怖があり、そこに母になることの期待と不安とがある。それらを組み合わせると、ああいった表情になるし、彼女はその顔が一番美しい。


 十七人に最高の美を与えてあげた私に、皆が感謝しているでしょう。捧げた命など、永遠の美に比較すれば些末なものです。


 あなたには分かりませんかねえ。

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