Code Name : 

Atelier Louis.

✾ Episode.1 ✾ 『Code Name : Gemini』



〈i : ? who are we〉


 モグラは地中ちちゅうおよぐ。

 そこへ、そこへとつちをかきける。


〈i / end〉


 わたしたちはのこるために進化しんかしなければならない。


〈i : ? what is the sin to bear?〉


 進化しんか過程かていでいらなくなったモノは、容赦ようしゃなくてなければならない。


〈no : i / end〉


 地中ちちゅうきるモグラの場合ばあいは、するど嗅覚きゅうかくと、発達はったつしたおおきなつめあたえられた。


〈wish : there should have been no sins long ago.〉


 けれどその代償だいしょう両目りょうめつぶし、盲目もうもくにならなければならなかった。


〈wish / disappointment〉




          ~・~ ◇◇◇ ~・~




 モグラはときどき地上ちじょうかおしては、ひかりびていることがある。

 なにえなくとも、かれらにとっては然程さほどたいした問題もんだいではないのだろう。

 もっぱら住処すみか地中ちちゅうふかくだ。

 そこにはえさ豊富ほうふにあって、みずこまることもない。モグラにとってはじつ居心地いごこちいことだろうとおもう。

 でも地中ちちゅういやられたわたしたちはというと、モグラのようには満足まんぞくできない。



 かつてこの大空おおぞらには、秘境ひきょうばれるしまがあった。



 それは大地だいち根付ねづくことなく、くもうえかび、百人にもたない人数にんずう構成こうせいされていた。

 そこには最初さいしょ最後さいご支配者しはいしゃヴィッキと、そのおとうとレダがいたとされ、そのを〝ベベル〟と名付なづけたのもかれらだとわれている。

 ヴィッキはおとうとおもいのたくましいあにだった。

 面倒見めんどうみがとてもよく、つよさや才能さいのうけっしてまわりにひけらかさない。

 それでいて自分じぶんはベベルのおうなのだと自慢じまんげにうたうこともなく、どもや老人ろうじんたいしてもおな目線めせん物事ものごとることが出来できるようなやさしいひとだった。

 その一方いっぽうおとうとのレダは〝おう〟などという立場たちば権力けんりょくにはまるで興味きょうみがなく、〝ベベル〟というそらかぶしま不思議ふしぎについて研究けんきゅうすることがなによりのたのしみであった。

 もちろんあにのことは尊敬そんけいしている。たみあいされるというのは、べるものにとってこのうえないしあわせなのだともおもう。

 けれどレダはダラダラとながれていく日常にちじょうにうんざりしていたし、きもしていた。

 だからなにかとびっきりの刺激しげきがほしかった。



 ベベルに上陸じょうりくしてからおよそ五十ねんあまり。



 ヴィッキとレダはおたがいの才能さいのうちからみといながら、地上ちじょうとは勝手かってちがそらしまでの生活せいかつ順調じゅんちょうおくっていた。

 だがむごいことに、ベベルの崩壊ほうかいは二人の兄弟きょうだいあらそいが原因げんいんほろびることとなる。

 そのはじまりは四百ねん以上いじょうまえわりをむかえ、こうしてあらそいにけたわたしたちの祖先そせん――つまり、おとうとレダの敗北はいぼく――は、〝罪人ざいにん〟というレッテルとともに、地中ちちゅうふかくへしずめられた。

 さいわいにもそなえていた知識ちしき技術ぎじゅつがあったおかげで、レダをふくめた仲間なかまたちは、つちなかおおきな地下空間ちかくうかんをつくることが出来できた。

 電気でんきはそこをながれるみず微量びりょうなエネルギーを最大限さいだいげんせるよう歯車はぐるままわし、発電はつでん

 みずもそこからり、あらかじめってきていた少量しょうりょうたね培養ばいようしてそだてるために、この順応じゅんのうした品種ひんしゅ改良かいりょう発芽はつがさせる。

 地下空間ちかくうかんつくげるのにはなが年月ねんげつがかかったが、そのぶん不自由ふじゆうのない最低限さいていげんらしがおくれるようにはなった。

 けれど、この身体からだきざまれた遺伝子いでんしというのはどうしようもなく、たらないわたしたちの身体からだは、すごとにしろく、ほそく、もろくなっていった。


〈disappointment / ? Destiny?〉


 ときつごとにうすれていく。


〈continue : disappointment〉


 とおいむかしにわされた約束やくそくを。


〈i : ? why // i don't relation.〉


 そしてわたしたちはあまりらない。


〈reda : veikki // ? the secret is in the sky.〉


 どうしてそのときわした約束やくそくいまでも律儀りちぎまもつづけているのかを――。



      

          ~・~ ◇◇◇ ~・~




 かずすくない娯楽ごらくの一さつに、レダがのこしたふる日記にっきがある。

 が、残念ざんねんなことにわたしたちがもっとりたい〝約束やくそく〟のことや、〝ベベル〟にかんする重要じゅうよう記述きじゅつは、だれかのによって意図的いとてきやぶられているようだった。

 けれどその日記にっきには、あにヴィッキにたいする謝罪文しゃざいぶんながつづられ、かれぬときも、そのことをひどやんでいたらしい。

 その理由りゆう父親ちちおやいても言葉ことばにごすようにして、はっきりとはこたえてくれなかった。

 そのくせ〝けっしてそとにはてはいけない〟という〝おきて〟だけをわたしたちにのこす。

 不満ふまん余計よけいつのるばかりだった。

 それでもわたしたちはゆめる。

 そと世界せかいや、太陽たいようまぶしさがどれほどのものかを。

 地底ちてい現王げんおうレグルスのむすめである三長女ちょうじょのヴィータ、次女じじょのイヴ、三女のウィニーはかんがえる。


〈i :? Can we solve the mystery?〉


 ――わたしたちは一体いったいなににおびえているの?


〈i :? / end / no, there are limits. //〉


 ――そのつみは四百ねん以上いじょうったいまでもえることはないの?


〈i :? but if so, would our destinies change more dramatically?〉




          ~・~ ◇◇◇ ~・~




 その疑問ぎもん辿たどいたとき、三なかでも一番いちばんかしこすえのウィニーがある仮説かせつてた。

 というよりも、その〝仮説かせつ〟がより濃厚のうこうになった、というべきか。

 極論きょくろんをいうとわたしたちは、地底ちていという牢獄ろうごくながめられているというわけではなく、なにかにおびえて、それからまもろうとしているのだ。

 よわ存在そんざいであるわたしたちがどこからも侵略しんりゃくけないために、この地下世界ちかせかいかくれている。

 これからまれてくるあたらしいいのちだってあるのに、ちゃんとした理由りゆうけもないまま、ずっとたらないくら世界せかいなか一生いっしょうえるのはいやだ。

 となれば、王族おうぞくむすめであるわたしたちがたみのために最善さいぜんくすというのが道理どうりである。

 年齢ねんれい性格せいかくちがえど、三はとてもなかい。

 一緒いっしょ冒険ぼうけんかけてはひろいモノをし、ひろうモノによっては、あたらしいモノをす。

 だれよりも貪欲どんよくで、だれよりも行動力こうどうりょくがある彼女かのじょたちは、流石さすが王様おうさまくほどの有能ゆうのうさをせている。

えよう。わたしたちの未来みらいを」

 イヴがこぶし高々たかだかてんかかげる。

 ヴィータもウィニーもやるちたをしていた。




          ~・~ ◇◇◇ ~・~




 そんなあるのこと。

 地底ちてい探索たんさくしていた三は、そこで一風いっぷうわったヘルメットをひろってきた。

 それはマスクの内側うちがわ空気孔くうきこう植物しょくぶつ根付ねづいたモノで、いても、いても、わず数分すうふん元通もとどおりにえてくるという異常いじょうなまでの生命力せいめいりょくがあった。

 そしてそのよこには――……、いままでにたこともないような人間にんげんが二人、身体からだからあおはなかせた状態じょうたいたおれていた。

 うえへとまっすぐびるくき先端せんたんに、一輪いちりんおおきなあおはないている。

 それ以外いがいとく目立めだった外傷がいしょうはなく、けれど、どちらも意識いしきうしなっているようだった。

「ねぇ、これんでるの?」

 イヴがしシイタケをかじりながらう。

 ウィニーはモグラにせてつくった土掘つちほからりると、二人の少年しょうねんった。

きてるとおもうよ。つちいろんなところにはいんでいるけどね」

 ウィニーはきざまに「ねぇ、ヴィタねえ。これウチにってかえってもいい?」といた。

 ヴィータは腕組うでぐみをして「いいんじゃないか? 私達わたしたち歯向はむかうようならころせばいい」とこたえた。

「じゃあ、ってかーえろっと」

 ウィニーは上機嫌じょうきげん少年しょうねんあしる。

 ヴィータとイヴも手伝てつだってやりながら、二人を土掘つちほうえせた。

「にしてもめずらしいもんだな。こんなふか場所ばしょ地上人ちじょうびとくわすとは」

「でもさ、ヴィタねえ。たぶん地上ちじょうにもこんな構造こうぞう人間にんげんなんていないとおもうよ」

「そうか。」

 ヴィータはちいさくいきらした。

わたしはおまえより地上ちじょうくわしくないからね、てっきりこういうくさえた人間にんげんもふつうにいるのかとおもっていたよ」

「たぶんちがう」

 ウィニーはもう一度いちどなおした。

「ねぇウィニー。このヘルメットのくさべれるかなぁ」

「さぁね。一回べてみればいいんじゃない? そしたらいろんなことがかるよ」

いろんなことって?」

本当ほんとうべられるのか、それともべられないのか。美味おいしいのか、美味おいしくないのか。あとはどくがあるか、とかね」

「――ちょっと。さきこわいことわないでよ」

はじめてにするやつなんだから、そーゆーリスクは最初さいしょからかっていること」

 ウィニーはイヴの顔面がんめんちいさなすと、「でもぼくもべてみたいから、一本ちょうだい」とった。

 イヴはかじっていたしシイタケを一旦いったん片手かたて避難ひなんさせると、ウィニーとなかよく半分はんぶんこした。




          ~・~ ◇◇◇ ~・~




 いえかえると、ウィニーはさっそく使つかふるしたパソコンをけた。



 ヘルメットにえたくさ正体しょうたい

 それから二人の少年しょうねん生物学的せいぶつがくてき構造こうぞうなぞ



 それらを一から解析かいせきし、ウィニーは生命せいめいメカニズムにおける重要じゅうような〝プログラム〟をゼロから構築こうちくはじめた。

 ウィニーの反射はんしゃしているのは、うえからしたながれる大量たいりょう暗号あんごう

 そのタイプの画面がめんをふだん見慣みなれているわけではないので、こうした難易度なんいどたか技術ぎじゅつ駆使くしして自在じざい仕事しごとをやってのけるウィニーには、ほかの二あたまがらない。


 これは彼女かのじょ才能さいのうである。


 身体からだちいさく、まるであかぼうのような体型たいけいをしているウィニー。

 ふっくらとしたほっぺ・・・や、おもわずキスしたくなるようなつやのあるくちびるは、だれてもあいらしくうつることだろう。

 けれど彼女かのじょみずか庇護欲ひごよくてるなんてことはしない。それよりもかえって少年しょうねんのようであり、凛々りりしく、頭脳ずのう明晰めいせきである。

 そのため三なかではすえという立場たちばにありながら、あね二人に一目いちもくかれる存在そんざいだった。

 ウィニーはよこいてあるお菓子かしばしながら、かろやかにキーボードをつ。

 パソコンからびる二本のくだは、コンクリートのゆかって、円柱状えんちゅうじょうおおきな水槽すいそうのてっぺんまでつづいていた。

 そこにはおおきなふたがひとつ。

 マンホールのようなおもめのそれには、サイズもピッタリのあなが二カ所かしょけられ、そのなかとおって、水中すいちゅうねむる二人の少年しょうねん頸椎けいついまでつながっていた。



Codeコード Nameネイム : Geminiジェミニ



 それが二たい被験者ひけんしゃである。

 よりくわしくうなら、〝Geminiジェミニ〟は双子ふたごであり、それぞれしろかみしろはだ、そしてさきとがったみみっていた。

 一人はながめのおかっぱあたま

 もう一人は短髪たんぱつのツンツンあたま

 まぶたかたざされ、表情ひょうじょうさえうかがえないものの、おさなかおつきをした二人の少年しょうねんいまもなおおだやかにねむっている。

 ウィニーは液晶画面えきしょうがめん釘付くぎづけになりながら、ゆびせわしなくキーボードにちつけていた。

 水槽すいそうなか様子ようすよりも、データのなか実態じったい興味きょうみがそそられているようだ。

 ウィニーはまた無意識むいしきのうちにお菓子かしふくろばしていた。

 ゆびをしゃぶってはキーボードをたたき、またお菓子かしまんではゆびをしゃぶる。

  そういうことをかえしていると、かねたイヴがウィニーとパソコンのあいだってはいって、いもうとよごれた指先ゆびさきをさっとつかげた。

「ウィニーったらまった行儀ぎょうぎわるいんだから。べるか、作業さぎょうをするか、どっちかにしなよ」

ったね? イヴねえ

 ウィニーはおもたいまぶたげて、ちいさな人差ひとさゆびをイヴにけた。

「だったらイヴねえも、あるきながらしキノコをかじっちゃダメだよ。ぼくにそううんだから、イヴねえにもぼくとおなしつもとめるよ」  

「やだやだ。またはじまったわ。あたまってホントうことも堅苦かたくるしいんだから」

 イヴは「やれやれ」とかたすくめ、今度こんど水槽すいそうまえって腕組うでぐみをしているヴィータのところへはなしかけにった。

ねえさん。〝Geminジェミニ〟の様子ようすはどう?」

「まだからんね。ウィニーの解析かいせきはやさはたすかっているけれど、それでもいまのところわたしたちがかったこととえば、あのヘルメットにえていたくさ種類しゅるいと、あの少年しょうねんたちにえていたくさ種類しゅるいまった別物べつものだってことぐらいだ」

 そういながらヴィータは、つくえうえかれたヘルメットをあごしめした。

「アレが少年しょうねんとはまった関係かんけいのない個別こべつものなら、わたしたちの食糧しょくりょうかすことをかんがえよう。

 何度なんどでもかえべることができて、かつ、手間てまをかけずに再生さいせい可能かのうだというのなら、すこくわえればわたしたちみんな食事しょくじがずっとらくになる。

 完成かんせいすれば、さぞお父様とうさまよろこばれることだろう」

 ヴィータは腕組うでぐみをしたまま、たわわにみのったむねしたからささえるようにしてげた。

「あとは結果けっかつだけだな」

 そういう彼女かのじょ言葉ことばには、いち王族おうぞくむすめとしてのほこりにあふれていた。

 とそこへ、タイミングをかぶせるようにとびらをノックするおとこえた。

姫様方ひめさまがた。お夕食ゆうしょく準備じゅんびととのっております。どうぞおあつまりくださいませ」

 三直属ちょくぞく召使めしつかいがとびらよこ深々ふかぶかあたまげる。

 その言葉ことばくやいなや、さきがったのはウィニーである。

 しょくには三とも貪欲どんよくだが、とりわけウィニーはちきれずお菓子かしべてしまうほど、ごはんい。

ってたよぉ。ぼくのエネルギーゲン」

 ウィニーはすっかり上機嫌じょうきげんである。彼女かのじょ画面がめん電源でんげんをつけっぱなしにしたまま、よろこいさんで部屋へやからった。

 そのあとをイヴ、いでヴィータのじゅんつづく。



 ――このときはだれもが異変いへん気付きづけなかった。



 ウィニーの管理かんりしているパソコンの画面上がめんじょうで、あかくエラーが発生はっせいしていたことには……。




          ~・~ ◇◇◇ ~・~




 三き、物音ものおとひとつこえなくなった部屋へやなかで、水槽すいそうにいた被験者ひけんしゃがゆっくりとけた。



 はらひたいはしに〝Undergroundアンダーグラウンド〟の烙印らくいんされた二人の少年しょうねん



 その数回すうかいまばたきをすると、おおきな水槽すいそうなか身体からだ自由じゆううごかしはじめた。

 ながめのおかっぱあたまをしたタアニャは意識いしきもどすなり、いちはやみずからが〝とらわれの〟であることをさとる。

 あたりをキョロキョロ見回みまわして、最上部さいじょうぶにあるおおきなふたのところまでくと、それをげて脱出だっしゅつできるかどうかをたしかめる。

 さいわいにも水槽すいそうにはかぎがかかっていなかった。

「ラビィ! ここからられそうだよ!」

 タアニャは短髪たんぱつ少年しょうねん手招てまねきする。ふたは二人がかりであれば、なんなくけることが出来できた。




          ~・~ ◇◇◇ ~・~




 ようやく解放かいほうされた二人は、まるでまれたばかりの小鹿こじかのようだった。

 しばらくのあいだは、まともにってあるくことも出来できない。

 何度目なんどめかのリハビリをえて、なんとかはしれるようにまでなると、かれらは頸椎けいついからくさりのようにつながっていたながくだおもいた。

 その途端とたん部屋へやのあちこちで警報けいほううるさはじめる。

 あか回転灯かいてんとうせわしなくまわり、異常事態いじょうじたい発生はっせいしたことをひろげた。

「これってぼくたちのせいだよね?」

多分たぶんそうだとおもうよ」

 そういながら、ラビィはくびうしろをゆびでなぞる。

 そこにはおおきなあながぽっかりといていて、さっきまでながくだふかさっていたことがたしかに証明しょうめいされていた。

 けれどそこからあかながつたうということはなく、ぎゃく内側うちがわからウニョウニョとうごめほそくさたちが、のようにわさって、きず完全かんぜん修復しゅうふくしている。

 いたみはほとんどかんじられなかった。

「これくらいなら大丈夫だいじょうぶそうだね」

 ラビィがぽつんとつぶやく。

 タアニャが切羽せっぱまった様子ようすかれった。

「ねぇ、ラビィ。はやくここをようよ‼ はやくしないとだれかがぼくたちをさがしにちゃう」

 タアニャの緊張きんちょうがラビィにもつたわる。

 二人はぎこちない足取あしどりで部屋へやた。

 だが、そこは迷路めいろのように複雑ふくざつ構図こうずをしたなが廊下ろうか

 二人はみぎひだりからないまま、あっち、こっちへたった。

「このままだとまりだよ、タアニャ!」

「わかってる! でもどっちにけばいいかからないんだ‼」

 太陽たいようしるべとならない地底ちていでは、自然しぜん方向感覚ほうこうかんかくまったてにはならない。

 等間隔とうかんかくけられたしろ蛍光灯けいこうとうによって廊下全体ろうかぜんたい満遍まんべんなくらしされているものの、たような景色けしきまどわされてばかりでかれらは一向いっこう出口でぐちつけられないでいた。


〈i / us : escap !!〉


 ぼくたちはどこにかってる?


〈i / us : escap !!〉


 出口でぐちはどこ?


〈i / us : escap to end〉




          ~・~ ◇◇◇ ~・~




 どうやって居場所いばしょめたのか、三ふくめた数人すうにんがいつのにか二人の背後はいごせまっていた。

 さきはしっていたタアニャはまえかべあしめ、いきせきって「どうしよう、もうみちがない‼」とこえおおきくした。

いてタアニャ!」 

 ラビィがかいながらさけんだ。

「ほんのすこしだけど、かぜながれをかんじるんだ。きっとどこかにそとつながるみちがあるはずだよ。さがして‼」

 ラビィが牽制けんせいする。

 そのあいだにタアニャはあたり次第しだいかべたたいて、どこかにちいさな手掛てがかりがないかをさぐった。

 すると――。

「あった!」 

 タアニャがさけんだ。

びついていて、ただの突起とっきにしかえなかったけど、ここにとびらがあるみたい!」

 それは正面しょうめんかべよりしたほうにあった。

 さびのせいで面積めんせきすくなく、力任ちからまかせにしたり、いたりしても、まるでビクともしない。

 さきに二人にいついたヴィータは、かくとびらそなけられたしろかべ構造こうぞうて、眉間みけんしわせた。

「ここはたしか――お父様とうさまっていた禁止区域きんしくいきじゃないか。よりにもよって、どうしてこの場所ばしょを……」

 彼女かのじょつかれきったようにいききながら、こめかみをゆびさえる。

わるいがそのさきかせることはできない。逃亡とうぼうあきらめてくれ」

あきらめたらボク達そこでわりなんでしょ?」

 タアニャがヴィータをにらみつける。

 ヴィータも少年しょうねんにらかえす。

 イヴは腕組うでぐみをしたまま状況じょうきょう見守みまもり、ウィニーは〝どうして順調じゅんちょうに見えたシステムに突然とつぜんのエラーがこったのか〟について、じっとかんがえをめぐらせていた。

「ヴィータさま

 の一人が耳打みみうちをする。

はやたなければ、げられてしまいますぞ」

かっている」

 ヴィータは仕方しかたなしにくびよこると、から指先ゆびさきまでまるごと機関銃きかんじゅうとなった左腕ひだりうでした。

 ウィニーの設計せっけいでサイボーグとなった左腕ひだりうで

 装填そうてんのタイミングさえ見計みはかれば、どんな戦闘せんとうでも不意打ふいうちの立派りっぱ武器ぶきになりわる。

 ヴィータは二人の少年しょうねんかって、なさけをかけることなく発砲はっぽうした。



 しかしこの選択せんたくあだとなる。



 結果けっかだけをれば、彼女かのじょくだした判断はんだん一瞬いっしゅんすきまれたのは、あとにもさきにもこのときだけだろう。

 ヴィータのはなった弾丸だんがんが、錆付さびついたとびらじょういてしまったのだ。

 びたとびら外側そとがわひらき、同時どうじつよかべしていたタアニャもまた、バランスをくずしてさかさまにちていく。



 つづきがあるとおもっていたみちさきが――そこにはなかったのだ。



 地上ちじょうからたてられたふか丸穴まるあな

 したほうかりがともされておらず、ねっとりとしたやみつつまれていた。

 あな側面そくめんにはとびらがいくつもめられており、どのみち辿たどっても、最終的さいしゅうてきにはこの場所ばしょ辿たどくよう設計せっけいされているようにおもわれた。

「タアニャ!」

 ラビィがってしたのぞむ。

 かれ姿すがたはすでに、豆粒まめつぶほどのおおきさになっていた。




          ~・~ ◇◇◇ ~・~




 ――ながいようでみじか空中落下くうちゅうらっか



 地面じめんにぶつかるまえに、なにかにつかまらなければいのちはない。

 そうおもうもとどかず、ようやくかれ指先ゆびさきれたのは、たよりないほそひものようなモノだけだった。

 そこに全体重ぜんたいじゅうをかけると「カチッ」というちいさなおとがハッキリとこえ、その直後ちょくご、すぐそばで〝なにか〟が作動さどうした。

 おおきなおととともに、あな側面そくめんにあったかりがしたからうえへとじゅんともっていく。

  すこしのあいだひもにぶらがっていたタアニャもおもわず見惚みとれてしまった。

 まえにあったのは銀色ぎんいろかがやおおきな機体きたい。それはまるで意思いしっているかのように起動きどうはじめた。

 そこにひと姿すがたはない。

 けれどコックピットのメーターが一瞬いっしゅんにしてがり、操縦そうじゅうレバーが一人でにうごいているのをると、タアニャはなぜかうれしくてたまらなかった。

「キミも――ねむっていたんだね」

 タアニャはほそめて、そうつぶやいた。

 だが、つぎ瞬間しゅんかんにはいた天井てんじょうから強風きょうふう身体からだおおきくれ、タアニャは必死ひっしほそひもへしがみかなければならなかった。

  ひもにはおもりのようない。

 あせすべのひらになにもつっかえることなく、タアニャの身体からだふたた落下らっかした。



 今度こんどこそわりだ。



 そうおもった刹那せつな、またしてもかれいのちはそのふねすくわれることとなる。

 タアニャがちるタイミングをまるで予知よちしていたかのように、見計みはからったタイミングで機体きたい旋回せんかいしたのだ。

 おかげでタアニャはちることなく、ふね左翼さよく身体からだあずけるかたちになった。

「ふぅ……」

 と一息ひといきつくのもやっと。

 ふね本格的ほんかくてき上昇じょうしょうはじめると、その風圧ふうあつえかねて、何度なんど身体からだばされそうになった。

 ふね以上いじょうにツルツルしている。

 つかみどころがほとんどなくて、タアニャは自分じぶんねらわれているということをすっかりわすれていた。

 ヴィータがもう一度いちどかれ照準しょうじゅんさだめる。

 イヴに両腕りょううでつかまれて身動みうごきのれないラビィは、もがきながらこえしぼった。

「タアニャ‼」

 ラビィがさけぶ。

「タアニャ、うしろ! ねらわれてる‼」

「え」

 タアニャがかえり、ヴィータが最後さいご弾丸だんがんはなつ。

 しかしそれは奇跡的きせきてきまとはずれ、銀色ぎんいろ機体きたいかえってわった。

 結局けっきょくのところ、タアニャのしろはだにはたま一発いっぱつたらなかったのである。

「タアニャ……」

 ラビィはおもわずこえらした。

 エンジンをかして旋回せんかいするそのふね操縦士そうじゅうしかげはない。

 それでもあらかじ目的もくてき場所ばしょだけはプログラムされていたようで、それは明確めいかく意思いしをもって地下ちかから地上ちじょう浮上ふじょうした。

 タアニャはおくれてしまったおとうとのラビィを見下みおろす。

 その距離きょり一方的いっぽうてきくばかりで、タアニャにはどうすることも出来できなかった。




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