第153話 八雲と沙羅

 某県の山奥。

 既に全く人は住んでおらず妖怪の住処となっている山で鬼の宴が開かれていた。

 その中心には酒吞童子こと八雲が居た。


「酒が無くなりそうですぜ、頭領」


「ああ~? まじかよ」


 既に数えきれないほどの酒瓶が転がっている。


「人里に降りて取ってきますか?」


「それをすると道弥がうるせえからなあ。貰った札束も減って来たからな」


 そう言って八雲は一万円札の数を数える。

 酒代として定期的に道弥はお金を渡していたが、酒飲みばかりの大所帯じゃ中々足りない。


 定期的にしっかりとお金を出して酒を買っていた。

 そんな時、一人の鬼が声をあげる。


「頭領、来ましたぜ!」


 その言葉を聞いて、八雲が笑う。


「久しぶりじゃねえか。もてなしてやれ」


「へい!」


「絶対殺すんじゃねえぞ!」


 鬼達の目線の先には一人の陰陽師。

 この山は妖怪が多いことから武者修行としてくる陰陽師も多い。


「ふん。鬼どもが。調子に乗りやがって。すぐに祓ってやる。そこの女だけは調伏してやろう」


 陰陽師は茨木童子を見てそう言った。


「我が名は天明(てんめい)! いずれ一級陰陽師になる男よ!」


 天明は堂々と名乗ると、鬼達に襲い掛かった。


「俺がやりますよ」

 

 一番下っ端の鬼が立ち上がり、迎え撃った。


 五分後、そこにはズタボロになった天明の姿があった。


(つ……強い! なぜだ! この山はここまで化物共が居る所ではないだろう!?) 


 八雲の部下はどれも二級妖怪以上の強さがある。

 天明はその圧倒的な強さにすっかり怯えている。


「さて、どうするか?」


「ひいぃ! た、助けてくれ。お、俺を殺すと大変なことになるぞ!」


「どうなるんだ?」


 笑いながら八雲が尋ねる。


「大量の陰陽師がここにやってきて、お前達を祓いにくる!」


「それはそれで楽しそうだな」


 八雲の言葉に天明は顔を真っ青にする。


「な、何でもする! だから命だけは……!」


 天明はすっかり怯えながら、両手を擦り合わせている。


「はあ……殺しはしねえよ。だけど、俺達もちょっと困ってるんだ。助けてくれねえか?」


「なにを……させるつもりか?」


「酒だ」


「酒?」


「宴に酒はつきものだろうが! シンプルに言ってやる。酒もってこい。お前が買えるだけな。分かったか?」


「は、はい! 今すぐに!」


「お前の霊力は覚えたからな? 逃げようとすんなよ」


「勿論です!」


 天明は首を高速で振った後、飛び出すように街に逃げて行った。


「これでしばらく酒に困りませんね」


「これくらいなら道弥も目を瞑るだろう」


 八雲は自分を襲いに来た陰陽師を返り討ちにして、命を助ける見返りに酒を貰っていた。


「よし、酒の当てもできた! 沙羅(さら)、呑め!」


 そう言って八雲は茨木童子こと沙羅に酒をつぐ。


「ありがとうございます。八雲様」


 茨木童子が酒を飲む様子を見て、八雲が尋ねる。


「どうした、最近何か変じゃねえか?」


「そんなことはありません! すみません、八雲様に気を遣わせて」


 茨木童子が申し訳なさそうに頭を下げる。


「そうか」


 八雲は大して気にせずに酒を呷る。


 その後も酒宴は続き、満足したのか八雲が腰を上げる。


「俺ァ、寝る」


 そう言って、八雲は寝床に戻っていった。

 八雲が消えてしばらくしてから、沙羅は立ち上がると思い切り酒樽を蹴り飛ばした。


「ああ、ちくしょー! 許せねぇ! 八雲様は世界最強、唯一無二のお方! 彼の方より上などあってはならない! 世界一強い八雲様を複数でやりやがって。あのクソガキガァ」


 そう言って、地面を叩く。

 力が強いせいで、地面が割れている。


「沙羅様荒れてるなぁ。頭領を崇拝しているからな」


「まぁ俺たちは従う人はかわらねぇし。道弥って奴が強いのも知ってるからなぁ」


 他の鬼はあまり気にしていないようだった。

 鬼は基本的に強い者が偉いと思っており、八雲に勝った道弥に従うことに納得していた。

 だが、沙羅は違う。


 信仰に近い感情で八雲に接しているため、納得できないのだ。


 しばらく怒っていると、そんな沙羅に声がかかる。


「なんだあ、不満みてえだな」


「八雲様⁉ いや……そんなことは」


 八雲に先ほどの愚痴を聞かれたと思い、顔が真っ青に変わる。


(なんということだ。八雲様の決定にケチをつけるようなことを聞かれてしまった)


「いや、知っている。別に怒りゃあしねえよ」


 そう言って、八雲は沙羅の隣に座る。


「俺は何が好きか知っているか?」


「死合ですね」


 沙羅は即答する。

 八雲にとっては戦いが全てであった。


「そうだ。よく分かっているじゃねえか。俺にとって大事なのは命がけの殺し合いができるかどうか。それだけだ。最近は俺とやり逢える奴は、めっきり少なくなっちまった」


 八雲はしみじみと言う。

 特級クラスの妖怪など、滅多には居ない。


 最近まで八雲は退屈していた。


「道弥から聞いた。あいつはまた晴明とやるつもりらしい。ああ……楽しみだ。あいつの式神は強えい奴ばかりなんだよ。俺が誰の下につくとか、そんなことは些事にすぎねえ。奴の下につけば、強い奴を用意してくれる。それだけのことだ」


 八雲は嬉しそうに言った。


「なるほど。八雲様のことを何も理解できておりませんでした。お許し下さい」


「別にいいさ。それに……俺は強い奴は好きなんだよ」


 最後に八雲はぽつりと言った。


(ぐうううううう酒呑童子様にそう言わせるなんて、道弥とやら、やっぱり許せん!)


 知らない間に、道弥は恨みを買っていた。



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【タイトル】

伝説の霊獣達が住まう【生存率0%】の無人島に捨てられた少年はサバイバルを経ていかにして最強に至ったか


URL

https://kakuyomu.jp/works/16818093089052369588


あらすじ

小さな村で平凡な日々を過ごしていた少年リオル。11歳の誕生日を迎え、両親に祝われながら幸せに眠りに着いた翌日、目を覚ますと全く知らないジャングルに居た。

そこは人類が滅ぼされ、伝説の霊獣達の住まう地獄のような無人島だった。

次々の襲い来る霊獣達にリオルは絶望しどん底に突き落とされるが、生き残るため戦うことを決意する。だが、現実は最弱のネズミの霊獣にすら敗北して……。

サバイバル生活の中、霊獣によって殺されかけたリオルは理解する。

弱ければ、何も得ることはできないと。

生きるためリオルはやがて力を求め始める。

堅実に努力を重ね少しずつ成長していくなか、やがて仲間(もふもふ?)に出会っていく。

地獄のような島でただの少年はいかにして最強へと至ったのか。

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復讐を誓う転生陰陽師は現代世界で無双する~裏切者の一族だと冤罪をかけられ没落しましたが、最強の式神達と共に成り上がります~ 藤原みけ@復讐を誓う転生陰陽師1巻発売中 @fujiwaramike

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