第152話 莉世神様

 俺は三連休のある日、遠出のために準備をしていた。


「あら、道弥様。どこか行かれるんですか?」


 リュックサックに荷物を詰めていた俺に、莉世が声をかける。


「ああ。武峯神社の様子を見に行こうと思ってな」


 武峯神社とは真が祀られていた神社である。

 真を式神としたことによって、真の後継者が現在神社を守っている。

 引き抜いた身としては一度くらい様子を見ておきたい。


「あいつを祀っていた場所ですか。埼玉ですよね。私が連れて行きますわ!」


 と胸を叩きながら言う。


「そうか。助かるよ」


 真と共に行こうと思ったが、莉世でいいか。

 俺は元の姿に戻った莉世に乗って、武峯神社に向かった。

 武峯神社の山頂付近にある御神殿にようやくたどり着く。

 真の後継者である楓がこちらに気付き、頭を下げる。


『芦屋様、お久しぶりです』


「お久しぶりです。何かお変わりはないですか?」


『いえ、何も変わりなくやらせて頂いています。たまに真様も来て下さるんですよ』


 と嬉しそうに話す。

 話を聞くに、特に問題もなくやっているようだ。

 それにしても、たまに見に来ていたのか真。

 そんな話、一度も聞いていなかったが。


「せっかく来たし、参拝してから帰るか」


「あ奴の神社では、たいした御利益もなさそうですが……」


 楓としばらく話した後、俺達は下の武峯神社に向かうために下山する。

 険しい山を下り、ようやく神社の敷地内に入る。

 上からだから、正規ルートではなくほぼ侵入である。


 塀を超え敷地に入った瞬間、泣いている幼女と目が合う。

 その目は充血して真っ赤になっている。

 なぜこんな所に?

 幼女は俺達を見て、今にも叫びそうな雰囲気である。


「あ……怪しい人?」


 これはまずい。

 陰陽師がこんなところで通報されたら評判がた落ちである。


「ち……違う! 俺は、いや彼女は神様だ! この神社の!」


 俺は咄嗟に嘘をついた。

 その言葉を聞いた莉世の顔を驚愕に変わる。


「ど、道弥様!? なにを……⁉」


「話を合わせろ、莉世。こんな所で騒ぎになっちゃ敵わん」


「で、ですが……」


 俺達は幼女に聞こえないようにこそこそと話す。

 幼女がいぶかし気な顔で莉世を見ていた。


「ほら、この神秘的な美しさ。神じゃないと出せないだろ?」

「そ、そんな神秘的な美しさだなんて」


 頬を赤くする莉世。


「う~ん。確かに綺麗だけど。じゃあお兄さんは?」


「神の付き人だね。神様に従う人」


「そうなんだ」


 何とか納得してもらえそうだ。


「神様なら、私の願いも叶えられるよね!」


 幼女から突然のお言葉。


「いや、神だからってなんでもできる訳じゃ……」


「やっぱり神様じゃないんじゃ?」


 再びこちらを疑う顔に変わる。


 これは……ある程度は聞かないと駄目か?


「よし、神様が少しだけなら叶えてくれるって」


「道弥様!?」


「なんとか誤魔化すしかない。莉世ならできる」


「神様なら空くらい飛べるよね?」


 と幼女が言う。

 そもそも神なら必ず飛べるものだろうか。

 だが、莉世なら飛べる。

 莉世は足に炎を軽く纏うと宙に浮かぶ。


「これでよろしいでしょう?」


 莉世はそう言って笑う。

 幼女は本当に飛ぶと思ってなかったのか、口を大きく開けて呆然としている。


「す、凄い……」


 なんとか納得してくれそうだ。

 と、思っていたら。


「神様なら、花とかも咲かせられるって聞いた! 花も出して!」


「は、花⁉」


 莉世が驚いた顔をする。


「私、出せませんよ?」


「俺が背後から出すから、花を出す振りをしてくれ」


「ええ……」


 再び俺達はこそこそと話す。


「……分かりました。今、花を出すから見てなさい」


 そう言って、莉世は手を地面に翳す。


「木行・溢花いつばな


 俺は後ろで呪を唱える。

 それと同時に、莉世の翳した場所から大量の花が咲く。

 一瞬で、小さな花畑ができた。


「凄い。本当に神様なんだ」


 幼女は笑顔で花を摘んで花束を作る。


「ようやく納得しましたね?」


 中々の強敵だった。


「……まだ。次で最後だから」


「いい加減に……」


「お爺ちゃんに会わせて! お爺ちゃん、もう会えないってお母さんから聞いたの。もう会えないくらい遠くに行ったって……また私と遊んでくれるって言ってたのに。神様なら……」


 幼女は目に涙をためながら、言った。

 この話を聞くに、お爺さんはもう……。

 流石の俺達でも、死者を生き返られることはできない。


「仕方ありませんわね……お爺さんのことを思い出しなさい」


 そう言って、莉世は手を幼女に翳す。


「う、うん……」


 幼女が目を瞑る。


「狐火・朧幻灯(おぼろげんとう)」


 莉世の言葉と共に、視界がぼやける。

 それと共に、お爺さんの姿が見える。


「お、お爺ちゃん!」


 幼女が泣きながら、叫ぶ。

 それを見てお爺さんはにっこりと笑う。

 幼女はお爺さんに抱き着き、泣いた。

 それをお爺さんは微笑みながら、背中を撫でていた。


「あのね。この間のお爺ちゃんの誕生日にね。お花あげられなかったから……これ」


 幼女はそう言って、花束を渡す。

 そのために、花を欲しがっていたのか。

 お爺さんは嬉しそうに受け取っていた。

 その後も、お爺さんは幸せそうに幼女の言葉を聞いていた。

 そして、お爺さんの姿が少しずつ薄れる。


「もうお別れなの?」


 お爺さんは幼女を抱き締めた後、手を振って消えていった。

 お爺さんが消えると同時に、一人の女性が現れる。


「居た! 薫、どこに行っていたの?」


「あのね、神様が居てお爺ちゃんと会わせてくれたの! ほら、そこに神様が」


 幼女が見た先には誰も居ない。


「誰も居ないじゃない。あら、こんなところになんでお花が咲いているのかしら?」


 お母さんは、幼女を連れて去って行った。

 俺達はお母さんが迎えに来たと同時に逃げた。

 十分に仕事はしただろう。


「疲れましたわ。朧幻灯は多くの霊力を使いますから」


「莉世は優しいな。技を使ってまで、会わせてあげるなんて」


「……あのまま騒がれたら困るからですわ」


「そんな優しい莉世に」


 俺は先ほどの溢花で生み出した花を手渡す。


「ありがとうございます! 大切にしますね!」


 莉世は大喜びで花を受け取ってくれた。

 莉世も喜んでくれたし、まあ良いことをしたと思うことにしよう。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


いよいよ明日11月9日に

『復讐を誓う転生陰陽師 ―芦屋道弥は現代世界で無双する―』

第1巻発売します!

がっつりと改稿してより熱くなれる作品になりましたので、既にお読みの皆様でもお楽しみ頂けると思います!

荒野さんによる超カッコいい道弥と、美しい莉世や夜月を是非見て欲しいです!


初週の売り上げが、続巻の生命線ですので、是非ご購入よろしくお願いします!

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