第151話 閑話 真と黒曜二人旅

 道弥が中学校に行っている間、式神達は各々自由に過ごしている。

 真と黒曜は事務所内で暇そうにテレビを見ていた。


「暇だねえ、真」


 黒曜がソファに寝そべりながら呟く。

 その様子だけ見たものが居れば、黒曜がかの伝説の妖怪鞍馬天狗だと思う者はいないだろう。


「暇なのも良いものじゃないか。主がさぶすく? というモノを教えてくれたからそれでも見るか?」


 そう答えるのは真。

 流ちょうに話しているが、見た目は白いもふもふの大型犬である。


「うーん……そういう気分じゃないんだよねえ」


「私は少し散歩に出る」


「じゃあ僕も一緒に行くよ。せっかく道弥から着物をプレゼントしてもらったのに、全然着る機会がなくてね」


 黒曜はそう言うと、一瞬で浴衣に着替える。

 和を感じさせる麻色の美しい浴衣だ。

 きっと似合うと言われ道弥からプレゼントされたその浴衣は、黒曜の宝物と言ってよかった。

 こうして、二人でのんびりと街を歩く。


「たまには男二人でも散策も乙なものではないか。真よ、どうして人化しないのだ? 人化くらい君なら簡単だろう?」


 黒曜は人型になっているが、真は現在白い犬の姿になっている。


『そうだな……特にこだわりという訳ではないのだが。狼として生きてきたから、なのかもしれんな』


 真は念話で答える。


「そうか。まあどんな姿を取ったとしても、僕は天狗だけどね!」


 黒曜は笑顔で答える。

 そのまま二人は新宿へ向かった。


「いやあ、人の発展というものは素晴らしいね。美味しい食べ物も多いし、知らない物だらけだ。人の凄さとは、その叡智にあるのかもしれない」


 黒曜は新宿のビルを見て素直に賞賛の言葉を漏らす。

 黒曜の財布には二千円だけ入っていた。道弥からのお小遣いである。


『うむ。それは間違いない』


「あっ。次はこれを食べようよ。テレビで見たよ!」


 そう言って黒曜は十円パンを購入し、美味しそうに食べている。


『すっかり馴染んでおるな』


 少しあきれた声色の真である。

 新宿は人が多い。浴衣の黒曜が目立たないのも都会故である。


「お嬢さん、遊ばない? 良いお店知っているんだ!」


「パス」


「ちっ!」


 すぐ近くではおっさんが女の子をナンパするも、全く相手にされていない。


「変な奴も多いな」


 と黒曜は笑う。


「ねえ、お兄さん。犬触っても良いですか?」


 そんな黒曜に女子高生の集団から声がかかる。

 どこか上目遣いで黒曜を見ており、女子高生の目的は真より黒曜であることが分かる。


「真に聞くといい」


 興味のない黒曜は淡々と返す。

 少女達はそれをオッケーととったのか、真に触れる。

 真は無言で少女達に撫でられた。


「ねえ、お兄さん。浴衣似合ってますね」


「モデル?」


 とガンガンと黒曜に絡みに行く少女達。

 黒曜は人とは思えない程整った容姿をしているため、目を惹く。

 今も多くの女性達が遠巻きに黒曜を見ていた。


「浴衣もかっこよいです。センスいいですね」


 全て適当にスルーしていた黒曜であったが、浴衣を褒められ笑顔になる。


「そうだろう! 大切な人が僕のためにくれたんだ!」


 にこにこで話す黒曜に、少女達はそれが恋人からのプレゼントと勘違いする。


「なんだー……彼女持ちか」


「あれほどのイケメンだもの」


 少女達は諦めて去って行った。


『誤解されていたぞ?』


「なんのことだい?」


 さっぱり理解していない黒曜は、気にも留めていない。

 その後黒曜は大通りから離れ、散策をしていた。


『つけられているな?』


「みたいだねえ。全く力のない人間がどうしてだろうね?」


 二人は背後から人がつけていることを感じていた。

 それは先ほど大通りでナンパに失敗していたおっさんであった。


『嫉妬であろう』


「嫉妬? 僕の美しさにかい? それは仕方ないね」


『間違ってなくはないが……』


 ついにおっさんが黒曜に声をかける。


「汚い犬なんて連れやがって! 女の子と絡むために連れ歩いているんだろう?」


 おっさんが怒鳴る。


「この小汚い男は何を言っているんだ? 真、汚い犬なんて言われているぞ」


 と笑う。


『うむ……綺麗にしているつもりなのだが』


 と真は自分の体を見る。


「女? そんなものはどうでもいい。見逃してやるからとっとと失せるといい、ゴミ」


 黒曜は心底興味がないのか淡々と返す。

 それが逆におっさんの心を逆なでする。


「この……顔が少しいいからって調子にのってやがる! 安っぽい着物なんて着やがって! よほど貧しいんだろう!」


 おっさんが叫ぶ。

 その言葉を聞いた黒曜の顔から表情が消える。

 その様子に、おっさんは小さく怯えた顔を見せた。


「安っぽい着物だと……道弥から貰ったものになんてことを!」


 怒りをにじませたその言葉に、おっさんが悲鳴を上げる。


「ぼ、暴力を振るうつもりか⁉ 映像で撮って、警察に言うからな!」


 おっさんはスマホを見せる。

 だが、そんな言葉黒曜には脅しにもならなかった。


「愚か」


 黒曜の言葉と共に、スマホが真っ二つに切断される。


「え……?」


 突如壊れた自分のスマホに驚きの声を上げる。


「なんでスマホが⁉」


 怯えた顔を見せるも、黒曜は止まらない。


「消え失せろ。カスが」


 その言葉と共に、黒曜は風でできた玉を放つ。

 一撃を受けたおっさんは十メートル以上吹き飛んだ後、壁に叩きつけられた。


「ぐっ……!」


 完全に泡をふいて痙攣しているが、死んではないようだ。


『偉いぞ。良く殺さなかった』


「道弥に迷惑がかかると良くないからね」


 そう言いながらも、服を全て風で切り刻む黒曜。

 その後、真がおっさんの頭頂部を爪で撫でる。それにより、頭頂部の髪の毛が全て綺麗に斬られてしまった。

 ザビエルの誕生である。


「ハハハハハ! 真もなかなかやるじゃないか!」


 その姿に大爆笑する黒曜。


「なに、主からの贈り物を馬鹿にされて怒る気持ちは分かるからな」


「だろう? 道弥に何か買って帰ってあげよう」


 二人は仲良くそのまま帰っていった。


【あとがき】

新作です! 一章完結まで書き溜めてあるので毎日投稿します!

ハイファンの最強系コメディ作品となっておりますので見て頂けると嬉しいです。


チートジョブを貰って異世界に転移されたにも関わらず、なぜか無職と判定されてしまった主人公。

パーティに入れてもらおうとするも、無職はちょっとと半笑い断られる日々。

そんな彼の元に集まるのは大喰らい&ギャンブル狂いでパーティを追い出されたケモミミ美少女や、魔導士を名乗るのに十秒で止まるロボットしか使えないロボットオタクなど問題児ばかり。

チートジョブで怠惰生活どころか借金返済しかいない系主人公の冒険譚となります!


タイトル

与一は怠惰に暮らしたい~神にチートジョブをもらって異世界転移したはずなのになぜか無職と判定されました。パーティに入れてもらえず、気付けば余り者同士でパーティを組んでいた件~


URL


あらすじ

幸せに睡眠を決めていた俺は、突然自称女神の謎の女に起こされる。

自称女神の女はチートジョブを与えると話していたが、眠い俺は適当にあしらっていたところ、突然異世界に転移されられてしまった。

え? ジョブについて何も聞いていないんですけど?

金もないのでジョブを活かすためにとりあえず冒険者になる俺。

あ、鑑定があるんですね? ならジョブ分かるじゃんと思ったが、なんと鑑定結果は無職と判定されてしまう。

話が違うんですが……?

おそらく最強の俺はなんとかパーティに入れてもらおうとするが、

「いやあ……無職はちょっと」と半笑いで断られる日々。

そんな俺の元に集まるのは大喰らい&ギャンブル狂いでパーティを追放された怪力ケモミミ美少女や、魔導士を名乗るのに十秒で止まるロボット(ゴーレム)しか使えないロボットオタクなど問題児ばかり。

あれ? チートジョブで怠惰生活どころか借金返済しかしてないんだが。ちくしょう、必ず金持ちになって夢の怠惰ライフを送ってやるからな!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る