幼馴染に告白するために筋肉を育てる

竜田川高架線

巷で人気の、細マッチョというやつ

 幼馴染に片思いしている。

 だが、今のままでは幼馴染のお眼鏡に叶うとは思えない。

 

 幼馴染は筋肉が好きらしい。ガタイの良い男が好みだというべきか。よくスマホで流行りの男性アイドルなんかの胸筋腹筋上腕二頭筋を熱心に見ている。

 

 だが僕はモヤシだ。お箸より重いものは持てない位にモヤシだ。

 

 僕は幼馴染に認めてもらうべく、トレーニングを開始した。

 

 しばらく経った。

 科学的かつストイックに、ひたすら筋肉を育てた。

 流石に数ヶ月程度やっただけではボディービルダー程とはいかないまでも、運動部のそれかそれ以上までには育った。

 巷で人気の、細マッチョというやつか。

 胸筋もそれなり、腹筋はしっかりと割れ、手足もいい感じだ。

 始める前に撮っておいた写真と比べてもだいぶ違う。

 謎に自信が付いてきた。何でも出来る気がする。もう、何も怖くない。

 

 そして時は来た。

 

 僕は、とうとう、幼馴染に告白する最高の好機が訪れた。

 後者裏に呼び出してどうこう、とかではない。数少ない友人に教わったのだ。こう言うのは、普段の会話の中でさりげなくやるモノだと。

 

 例えば、学校帰りに偶然一緒になって歩いているときとか。

 

「好きな人でも出来たの」

 と、幼馴染の方から聞いてきたのだ。

「なんで、急に」

「トレーニングとか始めたり、検索履歴に、恋愛のこととか調べてあったり」

「検索履歴……?」

「あ、いや、偶然見えただけ。それで、どうなの?」

「好きな人が、出来たというよりは、前から居た」

「へ、へえ……ちなみに、誰」

 緊張してきた。

 ここまで来たら言うしかない。

「君……だけど……」

 言ってしまった。とうとう言ってしまった。もう後に引けない。

 

 妙な沈黙が最高に怖いが、もうどうにでもなってしまえ。

 

 そして、幼馴染からクソデカ溜息が出てくる。

 

「なんだそんなことか、良かった〜。じゃあ、なんでトレーニングなんか」

「君のお眼鏡に叶うように」

「何それ。確かにちょっとガタイ良いくらいが好みだけど。急に変なこと始めるから、他に好きな人でも出来たのかと思った。もしそうだったら、筋肉削ぎ落としてたよ〜」

 

 幼馴染は半泣きで笑った。

 気が緩んだのか。

一体なぜ気を張り詰めていたのかは不明だし、ソレの用途も考えたくないが。

幼馴染は、ポケットから果物ナイフを落とした。

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