第11話 もう1度、蕎麦屋に

陸・・・

本当は、あなた全部知っているんじゃないの・・・?

今までの未解決事件も

今、おじちゃんのお店にある

赤色の砂も

本当は、陸が何かをしたのではないかと

私は自分の感情を抑えられなかった

陸が険しい表情で破裂させ

私の頬に当たった

あの金魚の死骸も

赤色だった・・・

陸は何を知っているの・・・?

『陸、蕎麦屋に行こう・・・』

私は陸に問いたい気持ちとは

違う声を発していた

『わかった』

陸は一言、そう言うと

私の身体を両手でスッと

立たせてくれ

土砂まみれになったスカートを

丁寧に叩いてくれた

傘を持ち、私をその中に入れる

これ以上、私の身体が濡れてしまわないよう

自分のほうに引き寄せて歩き出した

昨日とは、まるで違う光景に

今、私は動揺せず、しっかり前を向かないといけない

なぜか、そんな使命感のような気持ちが

込みあがっていた

1時間前には幸せな気持ちで向かった

商店街に、ゆっくりと進む・・・

本当は、蕎麦屋におじちゃんが居て

いつものように、温かい蕎麦を

食べさせて欲しい

握ったままの小銭入れが

手の中でグシャリと潰れてしまっていた

商店街に近づくにつれ

騒ぎを聞き集まってきた野次馬の人達で

ごった返していた

商店街の入口にも近づけない

離れた所に見える

おじちゃんの蕎麦屋の看板が

やけに遠く感じる

その看板の先に、数人の大人達が立っている

父の姿も、そこに見えた

『今日はもう、現場に近づけないな・・・』

陸はそう言うと

来た道を引き返していった

既にビショビショに濡れ

冷え切ってしまった私の身体を

肩ごと自分のほうに引き寄せ

何も話すことなく歩き出した

陸の優しさだったのか

さっき私が取り乱してしまった

土手ではなく、車通りの多い道を選び

帰っていった

陸の家が隣だったのは

幸いだった・・・

この日、私1人では

ちゃんと自宅まで

帰れそうになかった・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小さな夜の子 @chirorineko38

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ