第10話 陸の唇

赤い砂って

未解決事件として騒がれている

遺体ではなく、現場に赤色の砂だけ

残っている

その事件の事なの?

どうして蕎麦屋から

2人分の砂が見つかったの

おじちゃんはどうしたの?

私は言葉にならない感情を

陸の瞳にぶつけた・・・

壊れ、歪んでいく私の心を察したのか

陸は無表情のまま

傘を手放し

濡れたままの私を

両腕でぎゅっと力強く包み込んだ

華奢な陸の腕は想像以上に

力強く、私はその痛みに

思わず声を出した

『陸・・・苦しいよ』

表情が変わらないままの陸は

そのまま私の顔を覗き込み

ふいに

唇を合わせてきた

『ちょ!! なにしてるの!!!』

動顛した私は無表情なままの陸から

離れようとした

それでも陸は私を離そうとせず

しばらくの間

唇を合わせてきた

『落ち着いた・・・?』

陸がポツリと私に話しかけた

私は既に腰を抜かし

声も出せない・・・

はじめての男性からのハグ

嫌いなはずの華奢な陸が

自分よりも遥かに力強かったこと

美咲に送ったLINEが

今日も既読にならないこと

そして

おじちゃんのお店が

今、大変な事態になっている現実

全部 全部

今起こっていること・・・

昨日とは世界が変わってしまったかのように

目に映る光景が

私の知らない

望まない世界になってしまった

陸はそんな私を放って

さらに言葉を投げかけてきた


『人間が泣いている時は こうして温め合う事が大切なんだ』


私は出せるだけの力を振り絞り

陸を突き放した

『こんな時に何言ってるの!!』

涙がこぼれているのも

初めてのキスが

どうして陸なのかという現実も

もう、どうでもいい・・・


無表情なままの、陸が

小雨の中、私の目にいる

思考回路が止まったはずの私は

陸に話かけていた

『どうして陸が、事件の内容を知っているの・・・』


陸はいつも赤色の金魚を殺している

そして、行方不明になる未解決事件の現場には

いつも、赤色の金魚が

死骸となり発見されていた



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小さな夜の子 @chirorineko38

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