ありがとう。さようなら。
平行宇宙
第1話
大好きなみんなへ
病気になる前は、みんなでたくさん遊びに行ったね。
花見に渓流釣り、スノボーも楽しかった。
初めてシャーペンが手からこぼれ落ちた日。
すぐに気づいてくれた家族に感謝です。
病院に連れて行ってくれて、ALS(筋萎縮性側索硬化症)って診断されて。
これからどんどん筋肉がなくなっていく、そんなことを聞かされて、僕は絶望したよ。
筋肉の病気ってわけじゃなくて、運動ニューロン?神経が弱っていくんだ、とか説明されてもよくわかんない。
ただ動かなくなっていくらしいってことに僕はおびえた。
でも、みんなはずっと普通に接してくれたね。
徐々にできなくなることが増えて、みんなも不安だったはず。
なのに僕の前では、今までと変わらない様子でいてくれてありがとう。
手足がダメになってきて、でも車椅子を用意してくれて、四季を感じるように外へと連れて行ってくれたね。
緑の香り、水の香り、土の匂い、全部ちゃんとこの心に刻まれているよ。
病気が進んで、舌も動かなくなってきた。
そうしたら、視線で入力できるパソコンを用意してくれたね。
今ではこれが僕にとっての最大のコミュニケーションツールだ。
ゆっくりとしか入力はできないし、それでさえだんだん大変になってきた。
けど、こうやってお礼を言えるのが、僕には何よりもうれしいです。
僕はベッドから動けなくなっちゃったけど、今の世の中は便利で、視線一つで大好きな本も読めるし映画も見れる。
昨日も宇宙を旅する映画に夢中で、看護師さんに早く寝ろって叱られちゃった。
こんな風に身体が動かなくなっても心は動く。
だから僕は、全然辛くないです。
心が動いてるってみんなが知ってくれて、いろいろと今日あった出来事を話してくれる。それを聞いていると楽しくって、生きている、って実感できます。
本当に感謝してるんだ。
みんなの家族で良かったです。
ありがとう。そしてさようなら。
ありがとう。さようなら。 平行宇宙 @sola-h
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