異世界マッチョ転生~姫を助けられれば首から上が青白くてもいい~
豆腐数
夢が叶った!異世界トラックばんざーい!!
僕は、学校でも特別目立つようなところのない高校生だった。家に帰ってRPGゲームにいそしむのだけが楽しみの、つまらないオタク少年だった。
そんな僕はある日、トラックに轢かれてあっさり死んだ。
そして現れる女神様。長いストレートの髪にスイセンの花挿して、ヒラヒラの洋服着てる。結構可愛い。
「あなたにチート能力を授けて異世界転生させてあげましょう~」
よっしゃ来た!
「全く疲れない体力、全く動じない防御力、全ての装甲を貫ける筋肉を持ったマッチョに転生させてください」
体育万年2(1じゃなかったのは先生達の武士の情けである)だった僕の憧れの身体! 無料で手に入れるチャンス。逃す手はない。
「わかりました~」
女神様がスイセンの花のついた杖を向けると、僕の身体がぺかー! と光に包まれた。
「どうですか~?」
女神様が大きな姿身を出してくれる。
「おお──!! これだよこれ……って僕の姿キモッ」
みんなが思い浮かべる限界値ムッキムキの、日焼けした上半身裸の身体に、青白く目に隈のついた不健康なオタク少年の首を無理矢理移植した姿を思い浮かべてくれれば間違いない。
「そのキモ……たくましい身体でどんな敵も瞬殺です~」
今キモイって言いかけたよな? スイセンって毒あるからなあ。
〇
「よく来たな異世界のキモ……たくましい少年よ! 魔王からわしの可愛い姫を助けてやってほしいのじゃ!」
王様にまでキモイって言われかけた。
それにしても可愛い姫を魔王から助けろだってさ。王道で好きなシチュエーションだけど、今時古典的過ぎてRPGでもなかなか見ない気がするよ。
それからの僕はチートRTAだった。毒の沼地も飛んでくる矢も、特定の装備がないと死ぬマグマの火山、凍える氷山も僕には関係ない。なにしろマッチョレベル9999なので。もちろん敵だってそうだ。非力な魔法使い系のボスなんか魔法を使う前にミンチだし、力自慢のボスはその力を披露する前に塵と化した。
そんな僕だけど、流石にラスボスだけは若干苦戦した。
「かーかっかっか! そんな蚊ほどの攻撃じゃあビクともせんなぁ!」
「クソッ、ラスボスは普通に強い世界な上、補助系魔法レベル9999系魔王か!」
たまにラスボスがイマイチ弱いRPGってあるよね。強過ぎてもラスボス手前のセーブポイントで詰んだりするんだけどさ。バグで毒が効くからセコイ毒殺でラスボス倒した事あったなぁ。
しかし今の僕には小細工無用!
「魔王! 確かに貴様の物理防御はすごい! だがダメージをゼロに出来ない時点で貴様の負けなんだよ! 例えダメージ1でも! 貴様のHPがゼロになるまで殴り続ければ死ぬ!」
なにしろこっちにはほとんど休まなくても大丈夫な無尽蔵のHPがある!
「えっ待って、そんなの反則……ギャァアアアアアアア!」
三日三晩徹夜のチクチクグーパンによって、魔王はミンチになった。
「ご無事ですか姫!」
いかにもものすごい封印が施されてる感じの禍々しい扉をパンチで粉砕して、お姫様が捕らわれている部屋に乗り込んだ。
フカフカのじゅうたんを僕の素足が踏みしめた。ベッドやテーブルも装飾の施された高そうな作りで、ちゃんと綺麗な部屋を用意してもらっていたらしい。暇つぶし用なのだろう本をパタンと閉じたお姫様がイスから立ち上がり、僕を見上げる。今の僕身長2m近くあるからなぁ。
お姫様は少し小柄で、身長150cmくらい。くるくるの長い金髪は僕を出迎えてくれた王様譲りのもので、濃い藍色の瞳は王妃様譲りかな。何段もフリルのついた薄い菜の花色ドレスは花の女神様みたいだ。女神といえば、僕を転生させてくれた女神様は元気だろうか。
「貴方がわたくしを助けてくださったの?」
天然ものの声優さんみたいな、済んだ声。見上げる仕草、本を抱える華奢な腕。街の肖像画家の絵も、王様も、何一つ盛ってはいなかったという事だ。僕はポケットから、鳥の羽の形の道具を取り出す。
「ええ。このマジックアイテム『戻りの翼』をどうぞ。お城まで一瞬で戻れますので。一人分しかないのでお姫様が使ってください」
「貴方はどうなさるの?」
「僕は……平和を取り戻したので去ります」
この体力さえあれば、荒野の毒沼の上に家建てても生きていけると思うし。
「どうして。一緒にお城に戻りましょう。あなたは英雄です」
「うーん、僕としてはお姫様を助けられただけで満足っていうか……」
彼女は間違いなく、今まで出会ったどのRPGのお姫様より可愛い。RPGで出会ったお姫様たちだってもちろんみんな個性豊かで可愛かったさ。でもそれはリアルじゃないわけ。僕は画面越しに主人公を動かして、主人公とお姫様を橋渡しするだけの存在。
こうして彼女達の目の前に立って、現実の息遣いや視線を感じる事は出来ない。
彼女達には主人公という本当の王子様がいた。
「僕、今はこんなマッチョだけど、元々はファンタジーRPG──って言ってもわかんないか、今お姫様が抱えてるみたいな英雄譚が大好きなだけのひ弱な子供でさ。今みたいなシチュエーションに憧れてたんだ。一度でいいから本当にお姫様を颯爽と助けるような勇者になってみたいって」
だから十分満足。そもそも本当なら交通事故に遭った時点で死んで終わってたわけだし。ボーナスステージってどころじゃない。
「それに──お姫様だって、いくら助けて貰ったからって、いきなり全然知らない、首から上だけ青白いマッチョ男と結婚なんて嫌だろう?」
なにしろ人の好さそうな王様までとっさにキモイって言いかけたくらいだからなぁ。でも途中で倒したヒドラの四天王に「お前のが合成獣みたいで化け物じゃね?」って言われた時は流石に傷ついたな。
「それじゃ」
僕は手を上げて部屋を出ようとした、ところでズボンの端を控えめに引っ張られる。上半身裸のままここまで来たから、そこしか掴むところがないんだな、なんかゴメンなさい。
「お互いを良く知らないのなら、これから知ればいいと思いますの。それに──あなたは首から上だけ青白いなんて事ありませんわ。全身健康的に日焼けしてらっしゃいます」
どうやら旅をしているあいだに、いつの間にか首から上もレベルアップしていたらしい。
結局お姫様と僕は一緒に帰ることになった。カッコつけた手前恥ずかしいけどね。お姫様に城までの帰り道は酷だから、僕がお姫様抱っこして連れて行く事にした。
「あの……わたくし、重くありませんか?」
「天使の羽みたいに軽いよ」
いくら華奢な女の子でも、人を一人抱えてこんな事言えるのは、マッチョ転生したおかげだ。マッチョに転生して良かった。
〇
魔王の城から立ち去る二人を、こっそり見守る影一つ。
「転生させた少年、なんだか控えめなヘタレ……良い人っぽかったので~。ビターエンドになりそうだったら手を貸そうかと思ったのですが~。余計なお世話だったみたいですね~めでたし、めでたしです~」
女神がスイセンの杖を振ると、少年と姫を祝福するように周囲に花々が咲く。その中の一輪にスイセンが混じっているのを見逃さなかった少年は辺りを見渡したが──探し人は既にどこかへ姿を消していた。
異世界マッチョ転生~姫を助けられれば首から上が青白くてもいい~ 豆腐数 @karaagetori
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