2018世紀宇宙の旅

広瀬涼太

西暦201723年、人類は……

『おひつじ-オリオン高速道ベテルギウスからM78方面、アルデバランICインターを先頭に三万五千光年の渋滞』

 そんな交通情報を流し始めたラジオを、スイッチを殴りつけるようにして消した。


 一時間ほど前から始まった渋滞を抜ける術も見つからず、ただ時間だけが無為に流れてゆく。


「くそっ、これじゃいつになったら家に帰れるか……」

 星の海の彼方まで続く宇宙船くるまのテールランプの列を睨みつけながら、悪態をついた。


「まあまあ、自動操縦オートパイロットに切り替えたから、君もしばらく人工冬眠っていいよ」

 この渋滞に苛立つ様子も見せず、運転席の友人は穏やかな声を掛けてくる。


「ああ、すまん」

 助手席のシートを倒し、俺は横になって目を閉じる。


「あーあ、二十キロとか三十キロ程度の渋滞でギャーギャー言ってた、あの時代ころが懐かしい」


    ◆


「んあっ!?」

 体が大きく揺れ、俺は眠りから覚める。

 車のフロントガラスの向こうに広がるのは星の海……ではなく、山々を切りひらいて伸びる、真新しい高速道路。


「どうしたの?」

 友人の声が聞こえた。


「ええと、今、何年何月何日だ?」

「寝ぼけてるの? 2018年……平成30年3月24日だよ」

 寝起きのぼんやりした頭で窓の外を見まわす俺に、友人はあきれた声になる。


「今のは……夢?」

「夢? どんな?」

「渋滞に巻き込まれる夢だ」

「それなら大丈夫。もう渋滞の心配はないよ」

 運転席の友人は、夢と同じ落ち着いた口調で答えた。


 現在地を確かめようと、カーナビをのぞき込む。車は、道すらもない山の中をまっすぐに突き進んでいた。


「お、おい、これ、カーナビ壊れてないか!?」

「ああ、これ? 先週開通したばかりの道だから、まだ地図に反映されていないんだ。近いうちにアップグレードしておくよ。でも、位置は正確だから、大丈夫」


 ついこの間までは何十キロもの渋滞が慢性化していた道を迂回し、車は真新しい舗装道路を快適に駆け抜ける。


「これからは、いつもより遅くまで遊べるね」


―― 了 ――

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2018世紀宇宙の旅 広瀬涼太 @r_hirose

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