ジャンル細分化も極まったらこうなる?

榮織タスク

まずはおちつけ

「それぞれの筋肉を審査するコンテストを開いてみたらどうかと思うんだ」

「何だそれは」


 友人が突拍子もないことを言い出すのは今に始まったことではないが、今回ばかりは意味の把握が出来なかった。


「いや、先日ボディビルの審査基準を見てだな」

「何故みた」

「どうやらボディビルの大会では、総合的な評価だそうでな」

「聞けよ」

「世の中には『全体のバランスでは負けるが、上腕二頭筋の美しさだけは絶対に負けない』という人物もいるのではないかと思うんだ」


 どうやら、こちらの疑問を聞き入れるつもりはないらしい。こうなると、落ち着くまでは放置するか、ある程度話に乗ってやるしかない。

 とはいえ、ここで放置するとうっかり開催に向けて動き出しかねない。仕方なく、話に付き合うことにする。


「つまり、上腕二頭筋ならそれだけの美しさを審査するコンテストをやると」

「そうだ。出来れば人間のあらゆる筋肉を審査してみてはどうだろうと」

「待て待て。人体に何種類筋肉が存在すると思っている」

「頭部だけで五十種類くらいあったかな」

「そのそれぞれでやる気か」


 自信満々に頷く。正気か。

 絶対にそんなものを開催させるわけにはいかない。


「だいたい、外からは見えないところもあるだろ。そういうところはどうするんだ」

「MRIとか、医療技術的な何かでうまいことやれないかなと」

「タイミング次第にならないか、それ」

「それもそうか。ではやはり、そっとメスを入れて見せてもらうしか」


 何だか恐ろしいことを言い出した。

 ここは一言で何とか諦めさせる言葉をぶつけなくては。

 全身を頭に思い浮かべて、思いつく。


「心筋とかどうするつもりだ」

「そりゃあ、一旦胸を切り開いてだな……よし、やめよう」


 どうやら想像して頭が冷えたらしい。良かった。

 ほっとしたところで、友人がぽつりと呟く。


「そういえば脳筋って言葉があったな」

「やめい」


 それはただの比喩だ。

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