第二章 エピローグ
私がこの装置を作った目的は未だに思い出せない。
しかし、過去にこの装置を作ろうと思った時は誰かの幸せのため。
そう思ってこの装置の設計を始めたはずなのだ。
あの後、卓也からの連絡は一度も無い。
彼はあの日を最後に、犯人の男を連れて失踪したらしい。
テレビのニュース番組も連日、彼の報道を続けていた。
『敏腕刑事 謎の失踪!』この見出しをつけたニュース番組が連日のように流れていた。
彼をよく知りもしないテレビ番組のコメンテーターは、彼を無責任だの、職務放棄だの、と彼を罵る。
しかし、私はそうは思わなかった。
なぜなら、彼はきっと彼の間違いと、母親を殺した犯人の佐藤雄一の間違いを正しにどこかへ行ったのだと思ったから。
その後、卓也の勤め先の警察署が総動員で彼を探すも、彼の足取りを掴むような証拠はポツリポツリと発見されたが、肝心な彼の姿は一向に見つからなかった。
次第に世間の関心も薄れたのか、報道自体されなくなった。
彼の捜索も一か月ほどで打ち切りが決まり、その事がテレビで一言だけ流れた。
私は店の2F住居スペースで見ていたテレビを消し、窓際まで行って窓を開いた。
「卓也……今回の料金は貸しにしといてあげる」
私は窓から卓也が以前私に投げつけてきた財布を中身ごと投げ捨てた。
あの日、卓也が私に投げつけてきたように。
財布が空気抵抗を受けて開き、財布の中身が宙を舞う。
財布は早々に地面に落ちたが、中にいたお札はまだ空中で、必死に重力に抗っているようだ。
結局、卓也が最後に呟いた
「それなら俺も……」
の続きが何だったのか私にはわからないままだ。
しかしそれはもういい。
きっと生きていれば、その内ひょっこり顔を出すだろう。
彼お得意の「わりぃわりぃ」とでも言いながら。
今回の一件で『ドリ子』に人の記憶を消す機能を新たに付けようかと本気で考えた。
しかし、結局私はそれをやめた。
今でも十分私の手に余る代物の『ドリ子』にこれ以上機能を付与したら、その内、私自身の歯止めも利かなくなる。
私はこの装置を、どこかの誰かが忘れている幸せに気づいてもらいたくて作ったのだ。
今回の同級生の依頼を通して私は改めてそう思った。
今回の依頼で私は間違いを犯した。
この装置は人の幸せの為にのみ使うべきだった。
しかし、それでもいい。
人は人生を生きている間は、間違いから学んでいけば良いのだから。
卓也の財布がお店の前にポツンと残り、その中身は風に吹かれたのか跡形も無かった。
私はそれを見届けて窓を閉める。
「次はどんなお客さんが来るかな」
私はそんな独り言を呟き店舗スペースの1Fへ降りていく。
私の仕事は過去に忘れてしまった大切な思い出を発掘することだ。
そして今日もまたそうした人が来店予定だ。
私は気分を切り替えて今日の依頼に向かう。
(仮題)私と夢球 ビルメンA @Risou_no_Ajitama
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