魔女リルフィアは失恋のお手伝いする

友斗さと

第1話

「最近、筋トレしたいんスよねー」


有翼族の少年がそう漏らした。

彼は日頃の配達で鍛えられてるのでは?とリルフィアは首を傾げた。


「充分なのでは?」

「そうじゃないんスよー!」


そしてもじもじと頬を赤らめた。そんな少年の様子に、リルフィアはますます首を傾げた。


「実はですね〜」

「はあ」

「好きな子が筋肉フェチらしいんスよ〜!!」


そう言って少年ははしゃいだ。何とも可愛らしい理由だな、とリルフィアまでほっこりした。


「それでですね。聞きたいんですけど、筋肉増強の魔法とかないんスか?」

「なんとまあ安直な」


一転、呆れてしまった。

好きな子のためなら自分の力で何とかして欲しいものだ。


「あるにはありますよ」

「マジっすか!」

「翌日酷い筋肉痛になって、激痛で悶え苦しむことになってもいいなら」

「構わないっス!」


リルフィアは少し驚いた。ほとんどの場合、こう言えば諦めるからだ。


「十日後までにできないっスか?」

「……できますよ」

「じゃあお願いします!」

「……あの」


何故、この少年はここまでここまでこだわっているのか。リルフィアは気になってしまった。


「どうして一日だけで良いのですか?」

「あー……」


少年は少し言いにくそうにしている。いつも明るい彼にしては珍しい反応だ。

 ふと、聞いてはいけなかったのどろうか、とリルフィアは反省した。

 所詮リルフィアは魔女。顧客が望む魔法を施すだけ。相手がその魔法をどう使おうが、知ったことではない。


「その子、結婚するんスよー。その結婚式が十日後にあるんス」

「え!?」

「あ。結婚式を台無しにしようとかじゃないスよ!?あの子には幸せになってほしいんで。ちゃんと相思相愛で幸せな結婚式を挙げるみたいだし!」

「じゃあ何で……?」

「俺、その子とその子の結婚相手と、三人幼馴染なんス。だから二人が愛し合ってるのも知ってるし、これから幸せになってほしいとも思ってるんス。でも俺もなんだかんだでまだその子のこと好きで……略奪なんて考えてないけど、最後くらいその子にトキめいてほしいな、て」


そう語る少年はやっぱり少し寂しそうだった。


「わかりました」

「あざっス!」


なるべく副反応が少なくなるようにしよう。

彼の長い片思いに、終止符を打つために。



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魔女リルフィアは失恋のお手伝いする 友斗さと @tomotosato

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