あの日

空歩

第1話

14時46分、12年後のその時を、同じ場所で迎えた。


震度7の揺れは来ない。来ないと思いながらも、1年1年あの感覚が薄れていくことに何か申し訳ないように思う。めぐってくる1年「お前は何をしていたのだ」と責められているように思うのだ。


私は生まれた時から足が立たない。言葉もうまくしゃべれない。

中学の時に考えた「親が死んでも施設へ行かずに暮らすには?」その答えとなった団体で活動を始めて、10年後に震災は起きた。

避難所に行っても人であふれ、車いすでは居場所を失った。団体事務所で仲間と毛布をかぶっていた。

沿岸部に遺体が300体の遺体-ラジオから聞こえてくる言葉の意味が分からなかった。

徹夜で明かした夕方についたテレビで、水が襲っていた。


あの日、何かが変わったのだ。暮らし、街並み、空気、いのち。誰もがそれぞれに「あの日」を持っている。薄れゆく感覚と、強烈に残り、蘇る色、におい、音…苦しめられるだろう。時には癒されるだろう。


私は、これからの1年も生きてゆく。

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あの日 空歩 @tom-ku_ho

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