日和見事なかれ系モブ女子が王太子に転生していました。とりあえず王様になって箔を付けてからの楽隠居を目指しています。
とびぃ
第1話
前世は日和見事なかれ系モブ女子でした。
前々世でどれだけ徳を積んでいたのでしょうか、ファンタジー世界の神の系譜というチートな王族の、世に名を轟かす英雄と聖女の長男坊という綺羅綺羅しい生まれで転生していました。
性別が変わってしまったところはどうなのかと意見の分かれるところであるかと思いますが、恋愛とは縁遠いことに不平不満なく人生を過ごした身といたしましては些細なことです。
オタクの夢である転生特典は、もちろん賜っています。
天を裂き大地を割る武力系無双の父、それってもう蘇生だよね級の治癒を施す母から受け継いだオールマイティな力。巻き起こすのは扇風機の微風レベル、大地への干渉は小動物の足跡程度といった小規模ながらも万能な、というか父母級は恐ろしいので小規模ありがとうな能力です。
見た目は、……見た目はなんかモブです。
雄々しく美丈夫な父、傾国の美女を母とする子なのですが、モブです。
ナルキッソスと貼るほど鏡を覗き込んで見たならば、パーツ良しサイズ良し配置良し問題無し、やはり両親の子の相貌と思いきや華が無いのです。
父譲りの輝く金髪、母譲りの澄んだ碧眼。並べは色から親子判定が下せるけれども離れるとモブです。キラキラしていません。
さすが前世モブ、モブオーラ半端ないって叫びたい。
モブがモブ過ぎて市井に紛れ込みまくりです。王族なりに磨いていますから、良いところの坊ちゃん扱いされる感じでフラフラできています。
護衛はモブ系チートくんです。同い年の学友、平民から成り上がる、末は勇者か英雄かという無双男子です。でも紛れるモブ系です。
ありがとうモブ、モブのおかげでお忍びし放題です。
今日は、おっさんのスイーツショップに来ています。
若者の多い通りにある対面量り売りの小さな可愛らしいお店です。
オーナー兼開発担当者がムッキムキのおっさんなだけで売り子は可愛らしい女性です。
ちょっと並んで季節の花を象ったサクホロ系クッキーを購入し、ポケットからカラーボックスサイズに育て上げた空間収納に詰め込みます。
可愛らしく美味しいお菓子を常時所持し、天使ちゃんな弟妹に与えて可愛らしい笑顔を独り占めするのが生き甲斐です。
「はい、毒見」
丸み帯びた5弁の花を割り、半分をモブくんに渡し、半分を自分の口に放り込む。
「ちょ、毒見というなら先に食べないでくださいよ」
毒見はとある人用の建前だから良いんですよ。遠目で誤魔化しも効いてるはずです。もぐもぐ。
ほのかな花の香りにあっさりとした甘さ、噛んで解ける口溶けの良さ、美味です。
「うま」
顰め面しつつモブくんももぐもぐ。
「良い天気ですねえ」
「せっかくの狩り日和なのにな」
「雨は雨で狩り日和でしょうに」
この国は、気軽に一狩り行ける野生が近い環境で、狩りで得るチート素材で生活が潤っています。ただ、身軽に山野に出かけると狩られかねないスリル満点の高レベル地帯に在ったりします。狩りは必須技能で国民は程度の差は在れどほぼ戦闘民族。
ざっくり100年周期で魔王レベルの災獣が現れ、各国協力して退治しなければならないイベントがあるので世界人類戦闘民族かもしれません。
争い事と無縁な前世持ちにして意志薄弱な身には辛い世界です。
しかし、私が赤ちゃんの時に災獣討伐が済んでいるので超絶ラッキーです。
このラッキーな時代だからこそなれる王様になって、ブランドゲットして、のんびり隠居生活に備えるのです。
そぞろ歩きの目的地を花が盛りの公園にして向かっていると、幸を呼ぶ声が聞こえてきました。
「兄様ー」
この声は天使くん。キラキラ可愛らしい我が弟が走り寄って来ます。
正確には異母弟ですが些細なことです。
五つ年下の12歳。見た目も才能も父親Jr.な天使くん。
既に狩りで戦力になってるそうです。未来は英雄確定ですね。
次次代に輝かしい王様になってもらえれば全て丸く収まります。
優秀で素晴らしき弟にして可愛らしい天使が満面の笑顔で勢い良く飛び込んできます。
両手を広げて抱き留めましょう。
ぐふっ。脆弱でも受け止めてこそ兄。
護衛に支えられつつも兄貴面を成功させ、にこにこ笑顔の天使くんを抱きしめます。幸せ。
「今日はお友達とお出かけでしたね」
「はい!兄様にも会えて嬉しいです」
天使くんマジ天使。
感動に打ち震えているとお友達もやって来て挨拶してくれました。
ふわふわキラキラのお花ちゃん達に囲まれて幸せ度UP。
今日は女の子のお友達とお花見デートだったようです。
さすが天使くん、モテモテですね。
「兄様も一緒にお茶しませんか」
キュートなお誘いを受けてしまいました。しかしお花ちゃん達の邪魔をするわけにはいかないでしょう。
「リヒト様、ルフト様はそろそろご用事の時間になります」
新たな護衛が現れてしまいました。
「ジールが迎えが来てしまいました」
「残念です。兄様、あの、今度狩りをご一緒しませんか?」
もじもじ、可愛らしくお願いされてしまいましたが、狩り、ワタシノ実力ダトチョット難カシイカナー。
「そろそろ揺花の季節ですね。蜜を採りに行きますか」
「はい!」
難易度低めの採取で誤魔化したのに気持ち良い返事を返してくれました。
超天使。
挨拶をして可愛らしい楽園を後にします。
「やっぱりいたんだな。ジール」
「ルフト様の安全のためだ。事故は不意に訪れる」
「信用ないなー」
「ノエのことは信用も信頼もしている。それでも心配なのだ」
ノエはモブ系チートくん。
ジールはキラキラ系イケメンチートくんなので世間の認知度抜群です。
更にジールは王太子の懐刀としても名高く、隣にいたらモブが王太子とバレてしまう専属モブ殺しです。
いろいろ覚束無い頃からお世話になっていてそれはとても有り難く感謝していますが、過保護が過ぎると思います。
おかん属性は似合わないので是非とも返上していただきたいです。
「お忍びはおしまいですね」
「弟君とお会いになった時点でお忍びは終わっています。私を遠ざける意味がありません」
悲しそうに嘆いてみたけれどスパッと両断されてしまいました。
離れたら紛れられるけれども、反論は止めておきます。
のんびりお忍びの予定は崩れてしまったけれども、お城でのんびりに移行することにします。
先ほど約束した花の蜜採りの計画を立て、不足が無いように練り練りすることにしましょう。
転生して戸惑うこともたくさんありますが、平和で幸せな人生を送れています。
この平穏な日々が続きますように、祖神に感謝しお祈りしましょう。
皆様にも幸せが訪れるようお祈り申し上げます。
日和見事なかれ系モブ女子が王太子に転生していました。とりあえず王様になって箔を付けてからの楽隠居を目指しています。 とびぃ @tobika
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