Archive1 異世界転生してみた(したいとは言っていない)

「今日は●●●の3D配信!この日の為に残業しないで済むよう仕事を終わらせてきたんだ。早く帰らねぇと!!」


はやる気持ちを推進力に変えて俺は日が落ち始めた町を走っていた。配信、それはディスプレイ上でゲームや雑談、企画を通して見ている人に一時の娯楽を提供するコンテンツ


配信だからこその緊張感やワクワク感にいつからか俺は夢中になっていた。辛い時や悲しい時、心が荒んでいる時も配信を見ている間だけは全部忘れて楽しむ事ができた


最早俺にとって、生き甲斐といえば推しの配信を見て楽しむ事だった。そして今日はライブ配信者の中でも初期から推してるVtuberの3D記念配信!時間に関しちゃまだまだ余裕があるけど夜飯と、予約してたケーキも受け取りにいかないと!アーカイブでもみれるけどやっぱり生で見たい!


そんな俺の思いとは裏腹に目の前の信号は俺に対し、まるで煽るかの様に止まれと指示を出す。もどかしい気持ちをなんとか押さえつけ、自信の持ってるスマホで情報収集という名のオタ活を始める


そうしていたらふと俺の横に誰かが並んだ。少し気になり不審がられない様、目だけ向けると制服を着ている学生だった。今の時間だと特に珍しくもないなと思いスマホに目線を戻そうとすると、視界の端に少し違和感を覚える


気になってその方向を頭ごと向くと、トラックがこちらに向かってきていた。明らかに車線から外れているトラックの運転席には、うとうとした様子の運転手が…ってやばい!!?


このままだと二人共引かれる!そこからは考えるより先に、体が動いていた。可能性が低い二人で助かる事より、確実に一人が助かる道へと


「危ない!!」と叫びながらトラックの存在に気づいていない横にいる学生を後ろの歩道側へと押し飛ばす、女性に対して乱暴なやり方ではあるけどそんなの気にしている余裕は無かった


直後、俺は重い衝撃と共にトラックに跳ね飛ばされる。何回かバウンドし、地面に転がった俺はいつまで経っても自身に痛みが湧いてこない事を場違いながら不思議に思っていると、少しずつ瞼が重くなってくる


転がったアスファルトを見れば俺の体の何処にこれだけの量溜まっていたんだと思うくらい、赤黒い血溜まりが出来ていて、自分がもう助からない事を否応が無しにでも理解させられた


そんな俺に「大丈夫ですか!?」と声が届く、なんとかなけなしの体力を振り絞ってその声の方向へ顔をむけると、こちらへ向かってくるさっきの学生の姿があった


あぁ、良かった。彼女が引かれることはなかったんだと安心すると最後の力も尽きて、俺は完全に意識を手放した。あぁ、にしても、死ぬ前に…3D生配信…見たかっ…た…な








「………っ!」


どれくらい時間が経ったのか、或いは一瞬だったのかもしれない、それが分からない程意識を失っていた俺は不意に目を覚ました。背中からは、柔らかなベットの感触が伝わってくる。そして目の前に広がっている見た事のない白い天井に、何処かの病院かと考えた俺は、もしや助かったのかと思うと同時に、オタクなら一度は言って見たい台詞上位に入るであろう言葉を口にする


「………いああいえうおうあ(知らない天井だ)…!?」


まるで意味をなしていない自身の言葉とその声の高さ…幼さに驚く。え?なにこれ。うまく言葉が喋れない!?それに何だこの声、男性の中では比較的高い方ではあったけどそれにしたってこれじゃあまるで…


自分の置かれた状況が理解出来ず困惑していると、扉の開く音が聞こえた。その方向を向きたくても、満足に動かすことが出来ない体をベットの上で動かしていると、その音の主達は俺の元へやってくると顔を覗かせた


片方は外国人風の顔つきに赤茶色の髪をした男性、もう片方は黒色の髪を後ろで纏めた日本人風の女性。そんな二人が俺に笑顔を見せてきた


何かを喋ってはいるけど、日本語ではなくどこか知らない言語で話していて、内容が全くわからない。ただ分かる事と言えば、彼等は自分の親であると言う事。じゃなきゃここまで愛おしそうな目で見つめてきたり頬や髪を大切な宝物を触れるような優しい触り方はしない


そして…自分の手を目の前まで持っくるとそこにあったのはどう見ても大人の手ではなく、幼い赤ん坊の手だった。そこで確信する、やはり自分は一度死に、そしてこの二人の赤ん坊として転生したと言うことを


そうなると疑問になってくるのが元いた地球に転生したのか、もしくは全く違う異世界に転生したのかという点


前者なら全く問題ない、言語からして日本ではないけど子供の頃から慣れ親しんでいれば自然と身についていく筈だ。まぁこれに関しては異世界だろうと関係ない、けど後者だった場合、よっぽど近代的な世界でない限り配信を見る事は叶わない


そして、この世界が自分が慣れ親しんだ現代より前の時代の可能性が高い。それは壁や天井の作りが木製であったり、両親達の服装が昔よりの服装をしているから


あえてそうしている可能性は高いし、まだ望みは捨て切らない。今となっては前世に当たる地球での暮らしの中で読んでいた、異世界転生系のライトノベルだと現代に近い文明の世界に転生したものはあまりみなかったから可能性は低いけど。取り敢えず今すべき事は、一刻も早く言葉を覚える事


理由は両親がすごく愛おしそうに俺を見て話しかけてくれているのに、それに対して何か言葉をかけたり反応事が出来ないのが凄くもどかしいから。前世があり、且つ親孝行らしい事が出来ずここにきてしまった分余計にそう思う


それに情報収集するにも言葉がわからないんじゃ話にならない。最低限読み書きくらいも出来るようになりたい


取り敢えず出来る範囲の事をこれからやっていこう。そこまで考えた俺は、幼さ故の思考に対する疲労からか急激な眠気に襲われて、両親に見守られながら再び眠りに着いた


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異世界に転生したので人類初めての配信者になろうと思います アルファディル @Arufadhiru

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