第20話 表彰式

『それでは、表彰式を行います! ライク選手へ宝玉の贈呈です! 前へ!』


 俺の名前が壇上で呼ばれる。


 堂々と壇上に上っていく。

 そこには獣王が待っていた。


 獣王はライオンの獣人で、鬣が王としての風格を表している。

 大きな身体からは覇気のようなものを感じる。


「そなたの戦い。しかと見せてもらった。うちの息子が世話になったな。ありがとう」


「いえいえ。こちらこそです。ボコボコにしてしまってすみません」


 明るい口調で冗談を言ってみた。


「ハッハッハッ! よいよい! ライバルができるだけあやつも鍛錬に身が入って強くなれるだろうからの。逆に感謝する」


「左様ですか。それは恐い」


「そうだのう。勝ったものは勝ち続けなければならない。それはプレッシャーも伴うし、いくら鍛錬してもこれでいいのか? 大丈夫なのか? という沼にハマる。恐いことよのぉ」


 たしかにそうだ。

 勝ち続けるのは難しいことだな。


「そうですね。精進しなければ」


「これ以上強くなるならば、我を超えるかもな。楽しみだのぉ」


「超えますよ」


「ハッハッハッ! 楽しみだのぉ」


 フサフサなヒゲを撫でながらそういう獣王は余裕がみてとれる。

 まだまだ若いものには負けないと言うことだろうか。


「その宝玉は国家権力を手にするも同然だ。何に使う?」


「俺は、自国に持ち帰ります。他種族が楽しく過ごせる国作りに必要なんです。だから、この大会に出ました」


「なるほどのぉ。その景色は見てみたいのぉ」


「必ず」


 ウンウンと頷きながら肩を叩いてくる。

 そして、顔を近づけると。


「ダイナ王国の上の者には気をつけろ。奴らは手段を選ばない」


 周りにはハグしたように見えただろう。

 王の忠告を聞いたのは俺だけだ。


 キョトンとした目で見るとニカッと笑った。

 この人は本当にいい王様なんだろうなぁ。

 しかし、上の者に注意しろとはな。


 俺はイブさんを信頼している。

 だから、今回のミッションも疑ってはいない。

 ただ、その更に上の奴らは何を考えているかというのは、たしかに分からないところではある。


「ご忠告、感謝します」


 俺も小声で返す。

 すると頷いて肩をポンポンッと叩いてくれた。

 頼んだぞと、そういわれた気がした。


『これで表彰は終わりです! ですが、ここで獣王様から労いの食事会という名の宴会があります! 是非、ご参加下さい!』


「「「わぁぁぁぁ!」」」


 そこからは街を上げての宴会となった。

 今日の飲み食いする費用は全て獣王が出すらしい。

 なんでも、賭けに負けたとか。


 自分の息子が勝つと予想していたようなのだが、結果は俺が勝ってしまったから獣王の奢りとなったようだ。


 みんな闘技場を出て好きな飲み屋に向かう。


「タイガ、ミッコの店に行こう。あそこ酒もあるだろ?」


「あぁ、そうだろうな。パーッと行こうぜ! でもよ、これじゃあ、ミッコが卒倒しちまうぜ?」


「しょうがねぇよ。付いてきちまったんだから」


 後ろを見るとヒメノと話しているライオンが居る。

 コイツは息子の方。

 更に後ろに獣王が王妃様と一緒についてきていた。


 ちなみに王妃様はヒョウの獣人である。

 俺と見た目は少し近いが模様が違うからすぐに分かる。


「いらっしゃーい! タイガ! カッコよかったよ?」


「お、おう。少し多いんだが、いいか?」


「いいわよ! 今日は獣王様のおご……り……えっ!?」


 身を見開いて驚いたのは獣王が目に入ったからだろう。

 普段は騒ぎになる為、あまり街には出てこれないんだとか。

 だからこそ、楽しみにしてたみたいなんだけど。


「驚かせてすまねぇ。コイツを気に入ったみたいで付いてきちまったんだ」


 俺を指さすタイガ。

 ひとのせいにするなよなぁ。

 お前も気に入られてんだから。


「おぉ! ここは美味しいと評判の蕎麦屋じゃないか! 我はそばを食べたいぞ! そして、酒も出してくれ!」


 獣王の注文に慌てた様子のミッコと奥にいた店主。

「只今お持ちします!」と言って奥へと消えていった。


「俺達も何にするか選ぼうぜ! 俺は腹が減ったから野菜てんこ盛りのサラダ蕎麦にするぜ!」


「タイガ、それ昨日も食べてただろ?」


「好きなんだからいいんだよ!」


「俺もそれ食べてみようかな」


 俺もサラダ蕎麦を食べようとして注文しようとすると、何皿もサラダ蕎麦を持ったミッコが来た。


「これが、ウチでオススメしてるサラダ蕎麦です! 皆さん、是非食べてみて下さい!」


「「「おぉ!」」」


 次々と配られて食べ始めた。

 俺もひと口食べてみる。

 ズズッと啜ると鼻に抜ける蕎麦の香り。


 そして、少し酸味の感じが抜ける。

 たしかにサラダっぽい味付けだ。

 美味しいな。


「うん! 美味い! サイコーだのぉ!」


 獣王が喜んでいる。

 その他の皆も美味しいと食べている。


「ニイ、これ好きでしょ?」


 ヒメノは俺の食の好みをよく分かってる。

 その通り。

 こういう酸味のあるものが好きなのだ。


「あぁ。美味いな。これ好きだわ」


「私も好き。でも、なんか獣人がサラダ食べてるのはなんか意外だったわ」


「たしかにな。肉を食べないってのには理論的には納得だよな」


「そうねぇ。友を食べることになってしまうから」


「あぁ。獣人ではないが、仲間のような獣だからなぁ」


 そんな話をしていたら酒も運ばれてきた。

 そこからはどんちゃん騒ぎ。

 質問攻めにあって大変だった。


 しばらく経つと落ち着いたようでそれぞれで話をしている。


「ライクは、どこでそんなに強くなったんだ?」


「俺は、ダイナ王国のスラムにいました。それを今の魔法師団の団長に拾ってもらったんです。それで、修行して強くなりました」


「なるほどな。師匠が良かったんだな。どうだ? この国は?」


「えぇ。いい国だと思います。その証拠に、スラムがない」


 そう。

 アニマ王国にはスラムがないのだ。

 それには一番驚いた。


「我は皆が幸せになって欲しいんだ」


 そんな獣王の夢を聞いた。

 俺も同じだな。

 獣王の夢も背負おうと決心した。

 

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みなしご兄妹の成り上がり転生~ユニークスキル「バイオハッキング」で最強に至る~ ゆる弥 @yuruya

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