第19話 本戦 決勝

 俺は今猛烈に怒っている。

 タイガはすぐに医務室に運ばれたが、血を流しすぎた用で、かなり危険な状態だ。

 生死の境目をさ迷っている。


『それでは、決勝です。えぇー。タイガ選手、ただいま治療中です。前代未聞の事態ですね。武器、防具共に禁止されておりませんので、ルール違反ではありません! 皆さん、それは分かってくださいね!? それでは、決勝! 開始!』


 選手の紹介はなかった。

 そりゃそうだ。

 盛り上がらないから。


 相手のハイエナはブーイングを喰らうだろうが。それは盛り上がりに欠けると思った運営の判断だろう。


 それでいい。

 俺は怒っているんだから。

 ファンサービスなんてしてられねぇ。


「ハッハッハッ! みんな馬鹿だよなぁ? そう思わないか? 武器を使っていいのになんで使わない? 使えば勝てるのに! なぁ、そうだろ?」


 その言葉に笑いがこぼれた。


「ハッハッハッハッハッハッ!」


「何を笑っている!?」


「ハッハッハッハッハッハッ!」


 分かってねぇ。分かってねぇよ。

 なんでみんなが武器を持たずに参加するか。

 そんなのも分からねぇで参加してるのかよ。


 笑える。笑えるぜぇ。

 こんな奴に負けたらダメだぜタイガぁ。

 お前がこんな奴より弱いわけねぇんだから。


「お前、笑える」


「あぁぁん? 今から切り裂かれるのに俺を笑えるだとぉ!?」


「あぁ。この武闘大会、なんで素手で挑むと思う? そんなの己の力を試すためだろう? 何処まで強いのか。俺が今まで鍛えてきた、磨いてきた技は何処まで通用するのだろう。それをぶつけ合うための大会だろう? 武器をなぜ使わないか? そんなの、別に武器を使ってそれは己の技の強さを証明できるものではないからだ!」


「なら、別に剣術を磨いてきた俺様はそれを駆使しても何も言われる謂れはないだろう?」


 それがお前の言い分なんだな。

 分かった。分かったよ。

 完膚なきまでに叩きのめそう。


「あぁ。その通りだ。だから、俺は武器は使わねぇ。かかってこい」


「馬鹿にしやがって!」


 剣が振り下ろされる。

 腕を浅く傷つける。


「オラァ!」


 硬く握り締めた拳で殴りつける。


「がっ! このっ!」


 今度は胸が切れる。

 だが、構いやしない。


「オラァ!」


 今度は逆の手で殴りつける。


「なっ! うりゃぁ!」


 頭を狙ってきた。

 ガシッと剣身を掴む。

 そのまま頭突きを喰らわす。


 バギッと兜から出ている鼻がひしゃげた。


「がぁぁ! いてえ!」


「降参か?」


「そんなわけねぇ! くらえぇぇぇ!」


 剣を突き刺してくる。

 俺は動かなかった。


 ズシュッと刺さる。

 が、筋肉を締めて剣を抜けないようにした。


「う、動かない! くぅぅぅ! なんでだ!?」


「どうした?」


 俺の目を見て後ずさった。

 そんなに恐いか?

 俺の目が?


 覚悟を決めた漢はなぁ、この大会に出てる漢たちはなぁ、みんなこんな眼の奴らばかりなんだよ。


「ひぃぃ!」


 後ずさって尻もちを着く。

 それを追う俺。


「どうした? 刺せよ。全然刺さってねぇぞ?」


「くるな! 来るなぁぁ!」


「お前ぇぇ、そんな半端な覚悟でぇぇ! 武器使ってんじゃねぇぞぉぉぉ!」


 渾身の蹴りを放ち、ポーンッと場外に蹴り出した。

 これで決勝は終わったな。


「「「おおぉぉぉぉ!」」」


『凄まじぃぃ気迫ぅぅぅぅ! これぞぉぉぉ! 獣人の頂点にふさわしぃぃぃぃ漢だぁぁぁぁ!』


 歓声と実況が聞こえ始めた。

 さっきまでは怒りで聞こえていなかったようだ。


 ふぅぅ。

 腹に刺さっていた剣を抜く。

 カラァンッという音が鳴り響き。


 血がドクドクと流れる。

 それを見た実況は焦ったようだ。


『ああぁぁぁ! ライク選手の治療を早く!』


 駆けつけようとする運営。

 それを手で制す。


「大丈夫だ。ふぅぅぅ」


 少ない魔力を練る。


白雷治しろいかずち


パリパリパリパリッ


 弱めの白い雷が腹を巡る。

 そして、傷口は塞がっていった。


 それには観客は空いた口が塞がらなかった。


「さっすが! 私のニイだわ!」


 静まり返っている所に響いた声。

 今まで静かに見ていたヒメノだ。


 皆の視線がヒメノに集中する。


「ニイ! 流石! ひとっつも心配しなかったわ!」


 少しは心配したらどうだ?


『この猫美女は誰だァァァァ!? ライク選手の恋人でしょぉぉぉかぁあぁぁ!?』


 その言葉に顔を赤らめてクネクネするヒメノ。

 

「いや、妹だ」


『妹でしたぁぁぁ! というか、スルーしてしまいましたがぁぁぁ! ライク選手、魔法も使えるんですかァァァ!?』


「あぁ。タイガも使えるぞ? あいつも魔法師団だからな」


「はぁ。ライク、バラすなよ……」


 いつの間にかタイガが来ていた。

 無事だったようだ。

 傷は塞がっている。


「えっ!? ダメだったのか?」


「まだ誰にも言ってねぇよ」


「あちゃー。マジかよ! すまん!」


「まぁ、いい。どうせバレるんだ」


 そんな会話をしていると。

 実況さんが騒がしくなった。


『あぁぁぁぁっとぉぉ! タイガ選手復活ですぅぅぅう! よかったぁぁぁ! 無事で何よりです!』


 タイガが手を挙げると。


「「「わぁぁぁぁぁ!」」」


 歓声が上がった。

 みんなタイガの事を心配してくれていたみたいだ。


 よかった。

 二人でなんとか、勝ち取れた。

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