魔法界に蔓延する筋肉至上主義にうんざりしたので実弾で全部ぶち抜くことにした。
佐倉ソラヲ
結局鉛玉でぶち抜けばいい話
「皆見ろ!!
通りで響き渡る声に、アーノルドはうんざりと顔を上げる。
石畳の広がる大通りに、市民たちは歓喜の声を上げていた。
紙吹雪を散らしながら凱旋するのは、『パラディン』という呼び名からは想像もできないほどの巨漢――
「すげぇ!! 聖騎士のアニキたちだ!! なぁノル兄ちゃん!! オレもあんな風になれるかなぁ!!」
隣ではしゃぐのは弟のエルシオだ。
まだ幼く、小柄な弟は、聖騎士たちの肉体美をキラキラとした眼差しで見つめていた。
「やめろ、エル。お前はあんな風になるな」
アーノルドは、冷たく言い放った。
「あいつらが台頭したせいで、この国の魔法は廃れたんだ」
魔法とは、信仰の上に成り立っている。
魔力は、「魔法を信じる力」によって強くなる。
だから魔法という技術を存続させるには、魔法を使用する者、魔法を信じる者の存在が不可欠だった。
だがある日――――とあるギルドが現れた。
そいつらは元々、魔法使いたちのギルドだった。しかし、ギルドマスターは魔法ではなく己の拳で戦う拳闘士だった。
そして人々は気付く。魔法がいかに非効率的な技術であるかを。
詠唱という手間。個々の魔力量という格差。
人々は気付く。――魔法なんて不安定なモノを使うより、己の筋肉を鍛えて殴った方が早いのではないか? と。
それから、魔法は衰退した。
人々が魔法ではなく、筋肉を信じ始めたからだ。
多くの魔法ギルドは拳闘ギルドへと姿を変え、魔法に携わるあらゆる職業が廃れた。
アーノルドの父もそうだ。魔法を行使するための杖を造る職人を代々受け継いできたのがアーノルドの家だったのだが――先日、経営難を理由に廃業した。
父は首をくくり、母は精神を病んだ。
残されたアーノルドとエルシオは、何とか仕事を探して日々の生活費を稼ぐ毎日だった。
「――あいつらは俺たちの幸福を奪ったんだ。どれもこれも全部……あの筋肉だるまのせいなんだよ、エル」
「にいちゃん……」
凱旋パレードを背に、アーノルドとエルは自宅へと戻って行く。
遠くの通りで鳴るラッパの音すら忌々しく思えた。
あの歓声も歓喜も、悲しむ人の上に成り立っていることを誰も知らない。
「だからこんな世界、俺がぶっ壊してやる」
この世界の全てが憎い。
だから壊す。この手で、全部。
「お前に見せてなかったものがあったな、エル」
そう言ってアーノルドは自宅のガレージを開けた。
鉄の扉を抜けると明かりをつける。
「に、にいちゃん、これって……!!」
そこら中に並んでいるのは、以前から異国より輸入し続けている武器――銃だった。
「えっ!? 兄ちゃん、うち魔法業じゃなかったっけ!?」
「あぁそうだ。だが、今は魔法は時代遅れの産物だ」
全ては筋肉に取って代わられたのだから。
「これからは銃の時代だ、エル」
機関銃を手に取りながらアーノルドは微笑んだ。
「え……えっと……でも兄ちゃんが聖騎士のアニキたちが嫌いなのは魔法を衰退させたからだよね……? なんで魔法じゃなくて銃を使うの……?」
「結論がもう一つ先だ、エル。俺があの筋肉だるまたちを恨んでるのは、親父を廃業させた原因だからだ。別に魔法とかどうでもいい」
「そんなぁ!!」
「魔法は衰退してんだ。使ってんのは時代遅れの馬鹿だよ」
「で、でも父ちゃんはその時代遅れの魔法を生業にしてて……」
「だからその魔法を時代遅れにしたヤツらを殺しに行くんだよ」
「ころっ……!? な、なんかちょっと理路整然としてるのが怖いよ兄ちゃん!!」
殺さない理由がない。むしろ殺す理由しかない。
「じゃあな、エル。俺は今からヤツらを殺しに行ってくる」
荷物を担いだアーノルドは、ガレージに停めていた、石油由来の燃料で動く自動車に乗りこんだ。
「お前を俺の我儘に巻き込ませるわけにはいかねぇ。それに――母さんの面倒を見てやれるのは、お前だけだ、エル」
「に……兄ちゃん」
だがエルは走り出し、アーノルドの乗る車に乗りこんだ。
「お、俺も行くよ、兄ちゃん!」
「エル……? 危険だ、お前を巻き込むわけには……」
「俺だって、兄ちゃんを一人で行かせるわけにはいかないんだよ!!」
幼い弟は、ありったけの声を震わせて叫んだ。
「兄ちゃんは危なっかしいんだから、俺がしっかり見張っておかないと何しでかすかわかったもんじゃないんだ。だから本当に危なくなったら俺が兄ちゃんを止める。それで、一緒に帰るんだ」
「エル……はっ、お前も成長したな」
鼻をすすりながら、アーノルドは車を発進させた。
◆
轟音を上げて拳闘士ギルドに鉄の塊が突っ込んできた。
「うおっ!? 何だ!!」
「あれは自動車か!? 何考えてんだあの運転手……!!」
瓦礫を撒き散らしながら自動車は扉を突き破り、ギルドの受付カウンターまで真っ直ぐ一直線に突き進む。
その際にギルドの中にいた何人かを轢き潰し、物言わぬ肉塊に変えていた。
「貴様ら!! 何の用だ!!」
筋骨隆々な拳闘士が鉄のドアを片手で引っぺがす。するとそこには、怯えながら両手を上げる少年がいた。
「おっおおおお俺は何もしてません!!! 兄ちゃんが……兄ちゃんが……!!」
「あ? なんだお前、まだガキじゃ――――」
言い終わる前に、拳闘士は直立したまま後ろに倒れた。額に、赤い弾痕を残して。
「……ははっ、やっぱりな。どんなに鍛え抜かれた拳闘士だろうが、鉛玉の前じゃただの人ってわけだ」
片手に持った自動小銃の銃口から、細く煙をたなびかせながらアーノルドは言った。
「こっ……こんなの聞いてないよ兄ちゃん……!!」
「あぁ、言ってなかったからな」
淡々と言いながらアーノルドは後部座席に置いたマシンガンを取り出した。
(こ、こんなことなら来るんじゃなかったぁ……!!)
お前を連れていくわけにはいかない、と言い放った兄の言葉の意味をようやく理解した。
だから兄は、こうやってついてきた自分に相応の『覚悟』があるのだと、そう思い込んでいる。
「野郎ども!! あの暴走野郎を殺せ!!」
ギルドメンバーの一人が叫ぶと、大量の拳闘士たちが指を鳴らして立ちふさがる。
運転席、助手席の扉の前に並んだ拳闘士たちを前に、アーノルドは口の端を吊り上げてハンドルのボタンを押した。
途端に、大きな音を立てて自動車の上部から二本の銃口が伸びた。直後、銃口が火を噴く。あっという間に立ちふさがる肉の壁をミンチに変えていった。
「に……兄ちゃん、こんなの……」
「エル、顔を伏せてろ」
言うとアーノルドは、その手に持っていた閃光弾を割れたフロントガラスから中に投げ込んだ。
光が炸裂する。ギルド内に残っていた者たちの視界が即座に奪われる。
自動車から飛び出したアーノルドは、両手に機関銃を持って地獄絵図と化したギルドを蹂躙する。
降伏する者もいた。その中でも筋肉指数の低い者だけを仲間に加えた。
「彼らは筋肉に屈しなかった者たちだ。殺すなんてことはしない」
アーノルドは彼らを引き連れて筋肉ギルドを壊滅していった。
次第に人々は筋肉に対する不信感を覚え始める。――そう、これが筋肉信仰の終わりである。
人々は鉛玉を信じた。結局鉛玉でぶち抜けばいい話であると、皆気付いた。
誰もがその金属に惹かれていく。――エルは、その中心に立つ兄を、寂しい目で見つめていた。
「って感じで考えてるんですけど、どうですか次回作」
「なにこれ。米●玄師ですら乗っかってる筋肉ブームに真っ向から歯向かうつもりなんですか先生」
「なんですかアンタ。あのどこにも行けない歌手の歌聞いてるんですか!?」
「あなたも大概聞いてるじゃないですか」
魔法界に蔓延する筋肉至上主義にうんざりしたので実弾で全部ぶち抜くことにした。 佐倉ソラヲ @sakura_kombu
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