第2話 ヒトは今もホモ・サピエンスのままである

 長い長い時をかけて、天然痘は撲滅された。


 天然痘という病名の記憶だけが人々に残されている。天然痘がいかに多くの人々の命を奪ったかは、数字として記録されているだけだ。人が、互いに同じ人であるというのに、病への無知から、病を克服した人の未来を奪ったことも忘れられていこうとしている。


 記憶が薄れようとも、それがあったという事実は消えない。人の思惑など、ウイルスにも細菌にも真菌にも関係はない。人が知ろうが知るまいが、ウイルスも細菌も真菌も存在し、ときにヒトがその増殖の場となる。それを人は感染と呼ぶ。感染の連鎖と拡大を世界的大流行(パンデミックpandemic)と呼ぶ。


 ヒトがこの地球上に存在するよりも、遥かに遠い昔、ウイルスも細菌も真菌も誕生した。特にウイルスは世代交代が早く、なかでもRNAウイルスは、その遺伝情報の不安定性が故に常に絶え間なく変化を続け、新たな能力を獲得し、進化を続けている。



 我らヒトは今も、ホモ・サピエンスのままであるというのに。


<完>


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我らヒトは今もホモ・サピエンスのままであるというのに 海堂 岬 @KaidoMisaki

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