プロテインの甘さ【KAC20235】

天野橋立

プロテインの甘さ

 ドラッグストアで売っているというから、バイパス沿いで派手な看板を光らせている店へ、夜更けに自転車を走らせて買ってきた。

「理想の筋肉のために」と白抜きの文字で目立つように書かれたパッケージ。粉末が詰まっていて、持ち上げるとずっしり重い。

 プロテイン。「すごくまずい」という噂と、「今はおいしくなったよ」という情報が、ネット上では混じりあっていた。


 一応、評価の星が多かった商品を買ってきた。それがサクラだらけの評価で、すごいまずいのを引き当ててしまったのだとしても、全部飲み切るつもりだった。新しいのなんか買えないし、味のことなんか言ってる場合じゃない。

 一日も早く筋肉を増やしたい。一目で彼女が気づくくらいに。


 クラスは違うけど、いつも一緒に学校から帰っていた里菜りな

 なのに突然、

「ごめんね、ちょっと約束があって」

 それが三日も続いた。


 校庭のフェンスの陰からじっと、里菜が下校する様子を見ていた。栗色のポニーテールを春風になびかせたセーラー服の彼女は、いつもと変わらずとても綺麗。

 なのに、その隣には、間抜けヅラをしたマッチョな男が「HAHAHA」と能天気な声で馬鹿みたいに笑っていた。

 あんなのがいいのか。あれが、里菜の趣味なのか。不似合いな二人が、桜の散る並木をぼんやりとした影になって去っていく。


 鈍く銀色に光る台所のシンク、蛍光灯の下。

 付属のスプーンに粉末を入れて、ミルクの入ったグラスに放り込む。水のほうが簡単に溶けるみたいだけど、効果を考えるとミルクで飲むほうがいいはず。

 懸命に混ぜて、ピンクがかったどろどろになった不気味な物質を、覚悟を決めて飲んだ。

 甘い。おいしい、これ。

 これなら、続けられる。毎日飲み続けて、筋トレして。

 あんな間抜けヅラのマッチョマンなんか、ぶっ飛ばしてやる。里菜が誰のものか、思い知らせてやる。

 筋肉には筋肉。それで、すべて解決する。

(了)

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