柱の男達
和辻義一
血脈に刻まれた因縁に
「あーくそ、また育成に失敗だわ」
手にしていたスマホを枕元へと投げだし、ベッドの上で仰向けに寝転がる。
「○マ娘 ○リティーダービー」は、二年前にリリースされたスマホゲーム。女の子に擬人化された数々の競走馬を育成するシミュレーションゲームなんだが、リリース当初こそ色々と言われたものの、今では「○隊これくしょん」辺りと並ぶ超人気ブランドゲームの一つとなっている。
もうすぐ十周年を迎える「艦○これくしょん」にハマり続けているダチに言わせれば「金を突っ込んでナンボの、課金ゲーの最たるもの」とのことだったが、知ったことではない。好きなものに課金をして何が悪いのか。欲しいキャラクターやサポートカードを手に入れるためにつぎ込んだ金額は、身を持ち崩すほどではないものの、ちょっと人には言いづらいが。
最近始まった新シナリオ「グランドマスターズ」では、ウ○娘達の始祖と言われる三女神が登場するんだが、個人的にはちょっと攻略に苦戦している。攻略サイトを見ながら遊べば簡単なんだが、それじゃあゲーマーとしてのやりがいがないって言うか――ちなみに余談だが、三女神のうちの個人的な推しは青い人だったりして。
部屋の壁掛け時計に目を向けると、夜の十一時を回っていた。何だか妙に眠たくなってきた俺は、風呂は明日の朝に入ろうと心に決めつつ、部屋の電気を消して眠りについた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……めよ、目覚めよ」
誰かの声で、ふと目が覚めた。部屋の中は真っ暗だったが、複数の人の気配がする。何これ、いわゆる心霊現象とかって奴?
怖くなって、枕元に置いていた部屋の照明のリモコンスイッチを手に取る。ボタンを押して部屋が明るくなると、部屋の中に知らない三人の男達が立っていた。
「ようやく目覚めたかい、子羊クン」
三人のうち、一番爽やかそうでやたらガタイの良い、色黒の若い男が笑顔で言った。
「ちょっ、まっ、あんたら一体誰!?」
ビビった俺に、男が笑顔で言葉を続ける。
「ああ、なるほど。自己紹介が必要か……俺はダーレーアラビアン、君達が言うところの『神様』って存在だよ」
「へっ?」
呆然となる俺を見ながら、男の両脇にいた二人も口を開いた。
「私はゴドルフィンバルブという」
細い銀フレームの眼鏡をかけた細マッチョのイケメンだが、やっぱり肌は浅黒くて、若いのに口元には立派な髭を蓄えている。諏○部順一に似ている低くて渋い声が、何だか妙に腹が立つ。
「そして我が名はバイアリーターク」
こいつに至ってはもう、ガチムチマッチョの筋肉ダルマだ。野太い声で、口元のみならず、もみあげの辺りから顎の先までびっしりと濃い髭を蓄えたスキンヘッドが怖い。
――いや、いやいやいやいや。
三人とも「○マ娘」に出てくる、三女神の名前なんだけれども。サラブレッドの父を辿ると必ずいずれかに行き着く「三大始祖」ってやつ。
「なんで三人とも男なんだよっ!」
思わず口をついて出た、血反吐を吐きそうな俺の叫びに、ゴドルフィンバルブと名乗った細マッチョが平然と答えた。
「何を言っている。我々は三柱とも、お前達が『
「ってか、お前ら一体何なの? 何で俺の部屋にいるの?」
相変わらず気が動転している俺を見て、今度はバイアリータークと名乗ったおっさんがニカッと笑う。
「なに、貴様のウマに対する限りない愛情が、我ら三柱をここへと呼んだのだよ」
なっ――いきなり訳の分からんこと言ってんじゃねぇよ、怖ぇよ!
「彼の言っていることは本当だよ」
再び爽やかスマイルを浮かべるダーレーアラビアン。
「子羊クンが○マ娘に向けるひたむきなその愛情、あたら無駄にするのは少々惜しいと思ってね……だから、ずっとゲームにのめり込んでリアルの女性に目を向けない子羊クンを我々三柱の叡智で立派なナイスガイに仕立て上げて、現実世界で幸せにしてあげようという話になったんだ」
待って、ちょっと待って。
色々と理解が追いつかない。あと、さりげに俺のことをディスるのやめろ。ナイスガイとかいう死語もだ。
こういう時って普通、俺を助けに来てくれるのは美人の女神様ってのが相場だろ? 三姉妹の女神様とか。マッチョな野郎共三人に突然押しかけて来られても、嬉しくも何ともねーよ。
そして何より――
「何だか良く分からんが、まず一つお前らに言っておきたい」
「「「何だろうか」」」
爽やかに笑うダーレーアラビアン。引き締まった表情で軽く首を傾げるゴドルフィンバルブ。そして、ダブルバイセップスのポージングでニカッと笑うバイアリーターク。
「ひとまずお前ら、全員服を着ろおおおおおおっ!」
深夜のアパートに
「おっと、これは失礼。君達人間は、服というものを着るんだったね……生前の我々には無い習慣だったから、ついうっかりしていたよ」
三人が三人とも、すっぽんぽんで馬並みなブツをブラブラさせやがって――さっきからこっちの
柱の男達 和辻義一 @super_zero
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